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社説:所信表明演説 野党の代表質問のようだった

 まるで野党の代表質問のようだった。29日の麻生太郎首相の所信表明演説は民主党への批判や質問に重きが置かれたものだった。

 近づく総選挙。首相の危機感の表れではあろう。だが、本来、所信表明演説は自分の政権が何をしたいのか、広く国民に明らかにするためのものだ。いくら選挙管理内閣であるとはいえ、野党批判の前にきちんと語るべきことがあったはずだ。政権党としてのプライドも捨ててしまったのかと疑うほどだ。

 首相は法案審議が進まないのは民主党が政局優先の姿勢だからだと非難した。その一面があるのは否定しない。しかし、今の衆参のねじれは年金問題などにより、自民・公明政権が国民の信頼を失い、昨夏の参院選で自民党が惨敗したことに起因する。それを忘れてもらっては困る。

 首相はまた、補正予算案の成立が「焦眉(しょうび)の急」だと力説し、民主党が対案を出すのも結構だとしたうえで、「ただし、財源を明示していただきます」と皮肉っぽく演説した。

 民主党の政策に財源の裏付けが乏しいのは確かだ。だが、例えば首相は今年度内に定額減税を実施すると約束したが、その規模や財源は今も定かでない。

 突如言い出した後期高齢者医療制度の見直しに関しても、説明不足から「国民をいたずらに混乱させた」と反省の意向を示すと同時に「制度をなくせば解決するものでもない」とも説明。何を見直すのかは方向性さえ明らかにしなかった。これでは「自・公も民主もどっちもどっちだ」と言われても仕方あるまい。

 ひたすら民主党に審議を呼びかけた首相だが、与党内では10月3日に代表質問が終了した後、いきなり衆院を解散する案が取りざたされている。既に野党は衆参予算委員会を各2日開くよう提案している。補正予算案の審議もせず解散するのは「委員会を開けばもっとボロが出る」という情けないばかりの与党事情によるものだ。姑息(こそく)な手段はかえって有権者の信頼を失うだろう。

 演説に先立ち、首相は福田康夫前首相の政権投げ出しで生まれた政治空白や中山成彬前国土交通相の辞任について陳謝した。おわびするなら、なぜ、閣議決定する演説の本文に盛り込まなかったのか。これも中途半端な印象が残った。

 一方、演説冒頭で首相は「かしこくも、御名御璽(ぎょめいぎょじ)をいただき」と異例の表現をし、日本は明治以降、戦前戦後通じて「新総理の任命を、憲法上の手続きにのっとって続けてきた、統治の伝統」があると語った。

 現憲法では天皇は国会の指名に基づき、首相を任命する。首相の立場は戦前の明治憲法下とは明らかに違う。これについてどう考えているのか。もっと詳しく歴史的な認識を聞きたいところだ。

毎日新聞 2008年9月30日 東京朝刊

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