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外為資金でアメリカの金融危機を救うべし

2008年9月24日 フォーサイト
米国の金融危機は世界経済に大きなダメージを及ぼしかねない。日本は今こそ膨大な「SWF」を有効に使うときではないか。
 米国経済が危機的な状況にある。サブプライム問題に端を発した住宅バブルの崩壊があり、金融システム危機が来るというのだ。その象徴は、GSE(政府支援企業)である住宅関連金融機関ファニーメイ、フレディーマックの株価低迷だ。
 GSEというのは、民営化会社であるが、政府が種々な支援をしており、それらが発行する社債は事実上政府保証が付されていると多くの人が信じている。アメリカのGSEは、民営化されていない日本の政府系金融機関とは全く異なるが、あえていえば、民営化されたとはいうものの、株式の一部をまだ政府が保有しているNTTやJTのような存在だ。NTTやJTが破産しそうだといったら、日本では大騒ぎだろう。今のアメリカはそうした状況にある。
 しかも、アメリカ人は住宅の買い換えが好きで、一生のうちに何回も住宅を買い換えるので、ファニーメイ、フレディーマックは誰でも知っている有名企業だ。それが破産するかもしれないというのだ。ちなみに、二〇〇七年七月、両社の株価は六〇―七〇ドルであったが、今では、一〇ドル以下に低下している。これは二十年前の水準だ。
 アメリカ経済の失速は世界経済に大きく影響する。もっとも、アメリカでも手をこまねいているわけではなく、各種の金融システム対策が、まるで十年前の日本を後追いするかのように講じられている。米連邦準備制度理事会(FRB)は三月、資金繰りに窮した証券会社ベア・スターンズ社への対応で、同社を救済合併することになるJPモルガン・チェースに直接融資を行ない、また七月には住宅金融会社支援を表明した。
 そして、七月三十日、GSE救済法がブッシュ大統領の署名により成立した。ついに、GSEの状況はリクイディティ(当座の資金繰り)ではなくソルベンシー(支払余力の有無)の問題になってきたのだ。この法律は、米財務省に対して、従来のGSEへの融資枠を拡大し、GSE株式取得・債務引受の権限を十八カ月の時限措置として与えた。また、GSEの監督機関として、連邦住宅金融庁(FHFA)を創設した。
 ただ、この措置にもかかわらず、アメリカの金融機関には債務超過に陥るものが少なくないとされ、それらに対しても公的資金注入が必要になる可能性が高いという指摘もある。アメリカ大手金融機関八社で、これまでサブプライム関連の累積損失は十九兆円であるが、増資は十一兆円となっており、さらなる資本注入が必要との見方もある。

金融市場戦略チームの議論は

 こうした中で、渡辺喜美・前金融担当大臣は、大臣当時、極めて戦略的な話題に触れた。アメリカのGSE救済法の成立に先立つ七月二十二日の記者会見において、日本の政府が外貨準備資産の一部を使ってこの住宅金融会社の救済をすべきとの考えが報道されているという質問に答えて、「当該報道についていちいちコメントはいたしませんが、かねて(金融庁の)金融市場戦略チームでは、いろいろなブレインストーミングを行なってきております。その中には、例えば外為特会の運用の仕方についての議論もございました。ブレインストーミングの話ではございますけれども、外貨準備を使ったデット・エクイティ・スワップ(債権を元手にした出資)という案も議論されたところでございます」と述べた。
 要するに日本の外為資金を使って、アメリカの金融危機を救済しようという話である。しばらく前、日本の政府系ファンド(SWF)創設が話題になっていたが、いつの間にか下火になっていった。しかし、水面下ではいろいろな議論が行なわれていたのだ。筆者も金融庁の金融市場戦略チームの一員であったので、その辺りの事情を明らかにしたい。
 筆者は本誌の七月号で、SWFの一つである年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の運用体制の強化に反対した。もっとも、筆者も現在の公的年金の運用には不満があり、運用を積極的に行なうという主張には賛同する。ただし、GPIFによる積極運用には反対である。GPIFが国民に代わり運用する現行の体制は、個々の国民のニーズに即したものにならないからだ。そこで、GPIFを廃止し、個人ベースの運用にすべきと主張した。その際、もう一つのSWFである外為資金はどうするのか、という質問を受けた。
 一般論として、筆者は政府資産は今より少ないほうがいいと考えているので、まず、外為資金の圧縮を考えるべきである。次に、運用を積極的に行なうとしても、現行の方式以外に方法はないのか、また、現行の方法でいくとしても、それに伴うリスクとリターンを考えて判断すべきである。
 だが、外為資金を管理している財務省は、そんな運用を考えることさえダメだという。要するに、渡辺氏のブレインストーミングも認めないということだ。なぜならば、現行制度の下での外為資金の性格は、外国為替相場の急激な乱高下に対して市場に介入し(外国為替平衡操作)、相場変動をなだらかにすることを目的とし、外国為替等の売買を行なうファンドになっているからだ。
 しかし、外為資金は、政府短期証券(FB)を発行して調達した資金で外貨証券を購入する、円貨調達・外貨運用の形態になっていることから、世界最大の「円キャリー・ファンド」ともいわれ、為替リスクが大きい。外為特会の〇六年度末における外貨資産がすべてドル建資産であると仮定すると、一円の円高になると約〇・八兆円の外国為替等評価損が発生することになる。ちなみに、三月二十七日、当時の額賀福志郎財務相は参院財政金融委員会で、「一ドル=一〇〇円で計算した場合、十八・五兆円の評価損が出ている」と述べている。また、六月末でみると、外貨資産の評価損は十三兆円くらいだ。

大きな世界戦略で貢献を

 本来ならば、そこでまず、為替変動を起こしにくくするというマクロ経済環境を整え、外為資金の残高自体を圧縮することを考えたほうがいい。長期的にみれば、為替相場は自国通貨と外国通貨の購買力の比率によって決定されるという考え方がある(購買力平価説)。それぞれの通貨の購買力は物価水準になるので、為替相場は二国における物価水準の変化率に連動するともいえる。
 もちろん、為替相場は二国間の金利差など様々な要因によって決定されているが、二国の購買力の比率から大きく乖離した状態が長期的に継続するわけでもない。具体的には、適切な金融政策によって日本のインフレ率を他の先進国と同じくらいにしておけば、極端な為替変動圧力から逃れることができる。
 日本がいまだに外貨準備をもって為替政策を行なおうとすることが、おかしいのである。国際金融のトリレンマとして有名なことであるが、自由な資本移動を前提とすれば、金融政策と為替政策は二者択一になり、適切な金融政策をしようと思えば、為替政策を放棄しなければならない。先進国で変動相場制が選択されているのは、好きでやっているわけではなく、金融政策の自由度を確保するためである。このため、先進国の外為資金は、対GDP(国内総生産)比で見ても、米国〇・五%、ユーロ圏二%、イギリス二%程度と大きくない。一方、日本は二〇%を超え、一国だけ突出して大きい。
 とはいえ、マクロ環境を整えるためには日銀の協力が必要であるが、先進国では当然採用されているインフレ管理目標さえ拒否し、PDCAサイクル(plan-do-check-act cycle)もなく、目標がないので成果達成の責任もあいまいな日銀を、どのようにマクロ経済政策に協力させるのかという根本的な問題がある。
 よって、いずれにしても当面、日本は巨額な外為資金を持たざるをえないだろう。であれば、その結果のリスクとリターンを考慮してポートフォリオを入れかえ、たとえば、ドル建て債券の代わりにアメリカのファニーメイ、フレディーマックなどの株式に投資するという政策は、十分に検討に値する。
 こういう意見に対して、官僚サイドから、不適切であると反論がすぐ出てくる。ただし、彼らの反論は、「現行制度の下では不適切だ」というものにすぎない。現在の状況は現行制度では全く想定していない話であるから、現行制度の枠内で処理できるわけがないのだ。当然、戦略的対応は、大きな制度変更を伴うので官僚の手に余る話である。
 ただし、この戦略投資のリスクを現状と比べると、為替リスクは同じ、信用リスクは投資するタイミングに依存し、金利リスクはほとんど変化しない、ということだろう。注入する金融機関の損失処理後に投資すれば、信用リスクはほとんど変化しない。こうしたリスクに見合ったリターンがあるかどうかについては、投資するタイミングにある程度依存するが、どちらにせよ投資自体が世界経済にとって大きな貢献だろう。
 それをよりアピールするために、アメリカ政府と日本政府が協力することが望ましい。たとえば、アメリカ政府が米国債を発行して、救済金融機関の株式を取得した後で、日本政府が保有するドル建て米国債とスワップ(デット・エクイティ・スワップ)すれば、米国政府を通じて、日本政府は外為資金のポートフォリオを変更できる。しかも、この方式は救済期間後に確実に残高が減らせる。現状の為替リスクを抱えたままの残高増よりましだ。これは、実際に、金融市場戦略チームで提案された大きな世界戦略であるが、新内閣はどのように考えるだろうか。
筆者:東洋大学教授 高橋洋一 Takahashi Yoichi
フォーサイト2008年9月号より
※各媒体に掲載された記事を原文のまま掲載しています。

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