救急の現状は「300床クライシス」
医療安全や医療看護の質向上についての院内研修などを開催している中間法人S-QUE研究会と日本病院会は9月26日、「救急医療体制を考察・検証する」をテーマにした研修会を国保旭中央病院(千葉県旭市)で開催した。この中で同院の伊良部徳次救命救急センター長は、医師不足などの要因で救急対応能力が最も低下したのは300床規模の病院であるとの認識を示し、県内の医療提供体制全体に影響を及ぼしているとして、この状態を「300床クライシスだ」と訴えた。
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伊良部部長は、「千葉県東部の救急医療体制を考察・検証する―地域救急医療は再生可能か」と題して講演。今月末に休止する銚子市の市立総合病院や、常勤医不足が問題となっている山武郡の国保成東病院などを例に、「従来救急対応力が高かった300床規模の病院が救急に対応できなくなってきている。わたしはこれを『300床クライシス』と呼んでいる」と述べた。
この背景として2004年度に開まった臨床研修制度の必修化を挙げた。その理由に▽若手医師の研修を担っていたため救急対応力が高かったが研修医が減少▽救急が支えられていたのは若手医師の自己犠牲的マンパワーだった▽研修医制度の必修化への準備ができなかった―などを挙げた。 伊良部部長はこうした状況から、同院を受診する患者が、年々広域になってきたとするデータを紹介。地域別のレセプト件数をみると、同院がある旭市の北に10キロ以上離れた茨城県方面からの患者が、2000年と比べて06年には47.2%増加。中でも救急患者数の増加率が132.7%と大きく、遠方からの救急外来が劇的に増えていることが浮き彫りになっていた。同様に、西南に約20キロ離れている山武郡方面では、救急患者数の増加率は56.0%と、レセプト件数の増加率の14.3%増を上回り、旭市周辺地域で同じ現象が起こっていた。
これを受けて伊良部部長は、同院の救急患者の増加の要因を、周辺の二次救急の対応能力の低下や診療圏の拡大、市民の生活が昼夜を問わなくなってきていることなどと分析した。
伊良部部長は、「300床クライシス」が拡大して二次救急が救急患者を受け入れられなくなり、大規模病院に流入する患者が増加すると、大規模病院の負担が増え、体力が低下してしまうとした。その結果、「神経内科や泌尿器科、耳鼻科など診療科の縮小や閉鎖が起こっており、それがほかの診療科にも影響するという負の連鎖が拡大する」と述べた。このため救命救急センターを併設する500床規模の病院が三次救急の機能を果たせなくなるとして「救命救急センターが休止となり、500床病院クライシスになる」と主張。同院でも「30日以上入院している患者が月に100人以上いる」と、救命救急センターが圧迫されている現状を訴えた。
さらに、患者が二次救急を超えて三次救急に搬送される一方、慢性期患者の受け入れが療養病床削減などにより困難になっているとも指摘した。
伊良部部長はこうした状況の解決策として、救急医療体制や人材育成を広域連合で考えていくべきと主張した。二次医療圏では小児や産科の入院は拠点病院に集中させるなど、拠点病院を中心にしたネットワーク化を図るべきと強調。また、救急患者の受け入れについて、休日・夜間救急は主に開業医を主体とした初期診療所で対応し、二次・三次救急は拠点病院で受け入れるようにするなど役割分担し、平日の日勤帯に拠点病院から中核病院に患者を移動できるようなシステムを構築すべきと提案した。
■院内トリアージで、救急医療の質が向上
続いて、武蔵野赤十字病院で救急外来の患者に実施している院内トリアージの取り組みについて、看護師の西塔依久美さんが講演した。
同院では以前、搬送患者以外は受け付け順に診察していた。このため、待ち時間に患者が急変したり、患者からのクレームなどの問題があったため、2001年からトリアージ導入に向けて院内で検討を開始したという。現在では患者が事務手続きを終えた後に、院内で作成したマニュアルに基づいて看護師が簡単な問診や身体診察による病態評価、緊急度を判断するなどトリアージを実施している。西塔さんは「救急外来のトリアージは症状別のアセスメントが重要」と指摘。緊急度が高いものから赤・黄・緑に区分してそれぞれ対応し、現在では一人の患者に1−1.5分程度で対応できているという。
トリアージ導入後は、診察前に必要な情報が得られ、緊急度の・重症度の高い患者を早く診療できるようになった、などと医師からの評価が上がっているとした。また、西塔さんは「患者からのクレームが明らかに減ったことを看護師全員が感じていた。必要な患者に優先的に診療を実施でき、看護師のトリアージの必要性に対する認識も向上した」と述べ、院内全体の救急医療の質向上につながったとの認識を示した。
ただし、トリアージが院内独自のガイドラインであり、看護師個人の差もあることなどから、「トリアージの判断が正しいかどうか分からないという意見がある」とも指摘。標準的なガイドラインや法的なサポートなどが必要とした。
更新:2008/09/29 19:30 キャリアブレイン
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