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【社説】

国交相辞任 決戦へ目を覆う失点だ

2008年9月29日

 異常事態である。就任たった五日で中山国交相が辞任した。問題発言「三連発」の責任を免れなかった。総選挙を前に与党への打撃は深刻だ。言葉を軽んじた責めが発足間もない政権を揺さぶる。

 失言や放言を懸念される面々が名を連ねた麻生内閣がスタートしたのが二十四日。世間に新しい顔触れが浸透する前に、中山成彬国土交通相が二十八日に辞任した。

 いきなりの不安的中である。

 中山氏の発言は弁解の余地がない。報道各社のインタビューで大分県の教員汚職事件に触れ「大分の学力は低い。日教組の強いところは学力が低い」と発言。さらに成田空港反対闘争について「ごね得というか、戦後教育が悪かった」、外国人観光客誘致に絡み「日本は随分内向きな単一民族」と言いたい放題だった。

 いずれも誤った事実認識に基づくものだ。中山氏はその後「誤解を招いた」と撤回したが、日教組発言については「日本の教育の『がん』である日教組をぶっ壊す」と、さらに羽目を外した。反省のかけらもない。こうなっては与党も守りきれるはずがない。

 中山氏は保守派論客で売る。文部科学相当時も歴史教科書の記述を「極めて自虐的」となじった。辞任会見では「確信的に申し上げた」とまで語った。大臣の職の重さを全く理解していない。懲りない人である。国務大臣たる資質以前の問題だろう。

 麻生太郎首相の任命責任は極めて重い。中山氏は当初、行革担当相を打診されたが自分が官僚出身だとして拒んだ。役人目線の人物にどうして閣僚ポストを与えたのか。麻生氏は自民党最大派閥町村派の支援もあって総裁選で大勝した。同派事務総長である中山氏を論功で遇したのなら、まさに「古い自民」のやり方だ。首相は船出から大きな間違いを犯した。

 与党は首相の所信表明演説前の素早い辞任で、傷を最小限に抑えたと安堵(あんど)しているかもしれない。だが、野党は首相の任命責任を厳しく問う構えだ。首相は「国民に心からおわびする」と陳謝したとはいえ、うわべだけの取り繕いでしのげると思っているなら国民にも見透かされる。予想外に高くなかった内閣支持率にも影響を与えよう。

 私たちは新内閣発足時、「発する言葉を軽んじず、その質を競う」よう注文をつけた。懸念が早くも当たってしまった。こんなことを繰り返していると、政治の劣化が加速するだけである。

 

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