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社説

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国交相辞任―首相のとんだ眼鏡違い

 「適材適所」。閣僚選びにあたってこんな原則を強調していた麻生首相なのに、とんでもない眼鏡違いだったようである。新内閣発足からわずか5日目にして、中山成彬国土交通相が辞任に追い込まれた。

 成田空港整備の遅れを住民らの「ごね得」と語るなど、就任直後の中山氏の発言には、野党はもとより、与党からも批判の声があがった。一連の発言が問題になった翌日も、今度は開き直ったかのように「日教組をぶっ壊す」などの発言を続けた。

 中山氏は当初「撤回させていただく」と語った。なのに、選挙区の宮崎県に戻ると「国交省の建物のなかで発言したことは撤回したが、政治家中山成彬としては撤回した考えはない」と前言を翻し、せきを切ったように日教組批判などを繰り返した。

 政治家としての基本的な知識、責任感、判断力すら疑わせる。まるで駄々っ子のよう、といったらいいすぎか。

 首相はきのう「関係した国民の皆さんにおわびする」と謝罪したが、このような人物を閣僚に任命した責任は重い。辞表を受け取るのではなく、罷免という形で内閣としてのけじめをつけるべきではなかったか。

 当初から首相官邸の対応は鈍かった。最初の放言について、河村官房長官が中山氏に個別に注意する場面もないまま、2度目の発言で傷口を広げてしまった形だ。

 中山氏といえば、小泉内閣の文部科学相時代にも、歴史認識などをめぐる問題発言でたびたび物議をかもしてきた。そんな中山氏を麻生首相が入閣させた理由は十分想像できる。

 自民党総裁選で首相は、最大派閥・町村派の支援を受けた。町村派の事務総長である中山氏の入閣に、その「恩返し」の意味合いがあったのは間違いあるまい。人物評価よりも論功行賞を優先させた首相の判断がこの事態を招いた、と言われても仕方がない。

 きのう記者会見した中山氏は、辞任の理由を「国会審議をスムーズに進めるため」と説明し、自らを恥じる言葉はまったくなかった。ここ数年、同じような閣僚の辞任劇を何度見せられてきたことか。

 中山氏の辞任を受けて、与党内では野党が求める衆参両院の予算委員会審議を拒否し、できるだけ早く解散・総選挙にうって出るべきだとの意見が強まっている。汚染米や年金記録の改ざんに加え、新たに中山問題が野党の格好の追及材料になってしまう。それを恐れてのことのようだ。

 筋違いもはなはだしい。総選挙で問うべき課題は山ほどある。それをきちんと論じ合うのが国会の使命であるはずだ。解散の前に1週間程度の予算委員会を開くことを、改めて与野党に求める。

神舟7号―中国を国際連携の輪に

 白い宇宙服の飛行士が、青い地球を背に、誇らしげに赤い中国国旗をかざす姿が世界中にテレビ中継された。

 中国の有人宇宙船「神舟7号」による初の宇宙遊泳である。冷戦のさなか、人類初の宇宙遊泳を競っていた旧ソ連と米国は、1965年に相次いで成功させた。それから40年余り遅れたが、中国にとっては歴史的な快挙に違いないだろう。

 中国は03年、1人乗りの神舟5号で初めて有人飛行し、米ロの独占だった有人宇宙飛行の世界に名乗りを上げた。05年には2人乗りの神舟6号で、さまざまな実験をした。3回目の今回、宇宙船の外で作業をするという本格的な宇宙活動に挑んだ。

 その着実な歩みは、宇宙大国としての中国の存在が揺るぎないものになりつつあることを示している。

 再来年には、宇宙船同士のドッキングが計画されている。そうした技術を積み重ねて、独自の宇宙ステーションの建設をめざしている。

 しかし、宇宙開発はすでに、国際連携の時代に入っている。大切なのは、この連携の輪に中国を迎え入れていくことではないか。

 米国を中心に日本やロシア、欧州などが参加した国際宇宙ステーションの建設は、その国際連携の象徴だ。そこには、日本の実験棟「きぼう」もできた。

 この計画は冷戦時代、米国が旧ソ連に対抗するために西側諸国に参加を求め、冷戦終結後にはロシアが招かれた。中国は加わっていない。

 今、心配されているのは、米国とロシアとの間で繰り広げられてきた宇宙の軍拡競争に中国までが加わり、さらに激しくなることだ。

 とりわけ中国では、軍事部門が宇宙開発を担当している。高度な宇宙技術を持って存在感を増していくと、それが新たな宇宙軍拡競争の引き金にならないか、世界が懸念している。

 現に、中国が昨年、ミサイルで人工衛星の破壊実験を行うと、米国も今年、同様の実験を行っている。

 こうした不信を和らげるためにも、中国は宇宙開発で国際連携の輪に加わるべきなのだ。それによって、他国の無用な警戒心を解くことになる。まずは、できるところからでも、協力を始めればよいだろう。

 日本としても、中国に協力を積極的に呼びかけたい。日本が得意な宇宙観測などの分野で協力の道を探ることは可能ではないか。

 日本では宇宙基本法が成立し、この秋から、政府の宇宙開発戦略本部が今後の計画づくりを始めたところだ。

 基本法は、宇宙開発で国際協力を進めることもうたっている。安全保障の点からも、日中の宇宙協力の意味は大きいはずだ。

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