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2008年9月29日

 金沢出身の仏教思想家・鈴木大拙には、金の無心という才があった。没落士族の子は、あり余る金には無縁だった

同郷の後輩に、後年実業家として名をなした安宅弥吉がいた。大拙は米国遊学の生活費、禅の研究書の出版費用などを、次々と安宅に無心した。鎌倉に膨大な書物を収める文庫を作った費用も、そうである。質素な暮らしの中で研究を続けた大拙も偉いが、腹の足しにならぬ禅に巨費を投じた安宅もすごい

使ってこそ生きる金がある。霞が関に「埋蔵金」があるという。人目につかぬ所に金を蓄える官僚の知恵は、仲間内では褒められもしよう。が、台所が火の車という一方で、法外な隠し金が取りざたされるのが、果たして一流国家の姿だろうか。貯めるだけが能ではない

東洋研究に携わる多くの外国人は、ダイセツを知っている。が、その思想を生んだ北陸とのきずなを知る人はまれである。ふるさとの地は、これまで賢人の顕彰に金と労とを惜しんできたように思われる

生誕地近くで大拙記念館の整備が決まった。没後40年を過ぎて、「文化都市」の面目が保たれることになる。


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