基準設定の手順: 米国(2)
鹿児島大学獣医公衆衛生学教授 岡本嘉六
前回から米国の基準策定手順の紹介を始めたが、「全国食品安全計画(National Food Safety Programs)」の具体的展開をもう少し続ける。関係閣僚からなる「大統領直轄の食品安全評議会(President's Council on Food Safety)」が食品安全構想(FSI)の推進に当ってきたのだが、食品安全応用栄養学センター(CFSAN)が1999年に書いた「The Food Safety Initiative」に、「食品安全構想は、科学に基づいた可能な限り安全性の高い食品システムを創造するための強力な基盤をなしている(The Food Safety Initiative is establishing a strong foundation for creating the safest science-based food system possible.)」とあり、構想を裏付ける活動基盤、すなわち、予算を伴う組織体をも意味している。
下図は「背景説明:2000年度大統領食品安全構想(Backgrounder: 2000 President's Food Safety Initiative)」に書かれている予算額の推移である。法的検査と研究に多額を要しているが、教育とリスク査定がほぼ同額で広域調査がそれらを若干上回る。
連携費用が相当額用意されているが、食品安全構想の下で数多くの組織が活動しており、その方針検討や連絡調整に要するものである。「食品安全戦略計画(Food Safety Strategic Plan)」の「第1章: 緒言」に連邦政府内の「連携機関/仕組み(Coordinating Organizations/Mechanisms)」に挙げられているのは、大統領直轄の食品安全評議会、食品安全研究所連合(JIFSR: Joint Institute for Food Safety Research)、リスク査定国際協会(RAC: Risk Assessment Consortium)、食品媒介性疾患発生に対応する連携グループ(FORCG: Foodborne Outbreak Response Coordinating Group)、食品安全と応用栄養学研究所連合(JIFSAN: Joint Institute for Food Safety and Applied Nutrition)、全国食品安全システム検討会(NFSS project: National Food Safety System project)の6組織である。この他に、州政府や地方機関、民間組織などとの連携もある。
さて、上記の予算配分をみると環境保護局が含まれていないが、3億7000万ドル(407億円)であり、日本のBSE対応費用程度である。食品安全構想に力を込めているというが僅かこれだけ・・・(逆に言えば、日本がBSE対応に如何に多額を濫用しているかということになる)。それはともかくとして、最も多いのは、食品衛生行政を所轄する食品医薬品局であり、その半額弱が農場段階での安全性向上に取組む農事試験場、さらにその3分の1程度が食中毒発生の管理に当る疫病管理予防センター、そして食肉検査等を担当する食品安全検査局と続いている。これらの部局に配分された予算の使途が、上記のグラフであり、その一部を右側に示した。法的検査や広域調査は比較的少数機関であるが、リスク査定や教育は生産から消費までに関与する数多くの機関に配分されており、それらの機関がバラバラに行うのではなく協議した手法と方向性で連携プレーを取ることによって費用対効果を高めている。これらを統括しているのが大統領直轄の食品安全評議会であり、その委員会と業務補助職員が実務を担当している。
配分先 |
1000ドル(%) |
法的検査 |
広域調査 |
リスク査定 |
教育 |
|
農事試験場 |
81,588 |
22.11 |
|
|
7,309 |
|
州連合研究、教育および公開活動 |
35,788 |
9.70 |
|
|
3,702 |
8,287 |
農産物市場取引局 |
6,297 |
1.71 |
|
|
|
|
食品安全検査局 |
21,432 |
5.81 |
12,513 |
1,500 |
3,260 |
3,659 |
経済調査局 |
1,391 |
0.38 |
|
285 |
686 |
420 |
主席経済管理者事務所 |
196 |
0.05 |
|
|
158 |
38 |
全国農業統計局 |
2,500 |
0.68 |
|
|
2,500 |
|
食品消費者局 |
2,000 |
0.54 |
|
|
|
2,000 |
農務省小計 |
151,192 |
40.97 |
|
|
|
|
食品医薬品局 |
188,336 |
51.04 |
122,514 |
10,297 |
8,039 |
8,370 |
疫病管理予防センター |
29,476 |
7.99 |
|
29,000 |
|
476 |
保険福祉省小計 |
217,812 |
59.03 |
|
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食品安全構想合計 |
369,004 |
100.00 |
135,027 |
41,082 |
25,654 |
23,250 |
評議会の委員会と書いたが、食品安全構想(FSI)の推進組織がどのようなものか私にも全容は判らないものの、前回紹介した評議会憲章に委員会の設置が明記されている。各機関の中にFSI担当部ができており、それらが必要に応じて協議し評議会に報告する仕組み(委員会と銘打っているかどうかは判らない)があるものと考えられる。 たとえば、1999年9月に開催された「公衆衛生と取引に影響を及ぼしている食品の安全性と食品安全構想に関する地域活動会議(Regional Outreach Conference on Food Safety, Food Safety Initiatives Influencing Public Health and Trade)」の発表者をみると、上スライドは「生産と法的検査チーム・リーダー FSI部員 農務省」という肩書きがある。中スライドは、「研究とリスク査定チーム」で食品安全応用栄養学センター(CFSAN)に所属しているものと思われる。下スライドは、安全構想の連携した取組みとして、広域調査、法的検査、リスク査定、研究、教育を挙げており、先に示した予算の使途と一致している。このような枠組みで、部局を超えた推進チームができているものと思われる。省庁に跨り、民間機関を含めたチーム活動が食品安全構想(FSI)の下で展開されていることは、日本におけるリスク・コミュニケーションを再検討する上で大いに参考になるだろう。 |
Mary Ayling, Produce and Inspection Team Leader, Food Safety Initiative (Slide 1) |
Arthur Miller, Ph.D. , Lead Scientist, Food Safety Initiative (Slide 1) |
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Joyce Saltsman, Ph.D., Food Technologist (Slide 8) |