基準設定の手順: コーデックス(3)
鹿児島大学獣医公衆衛生学教授 岡本嘉六
JECFA の提案を受けたCCFACにおける審議段階については、農水省の「コーデックス食品規格作成ステップ」や日本食品衛生協会の「コーデックス規格はどうやって作る?」に説明されているのでここでは省略するが、「基準設定の手順: コーデックス(1)」で述べたように国際機関や加盟国政府代表の他に国際的非政府組織が立会人として参加して行われる。NGOとして登録されている157団体(NGOを選んでsearch)には、世界の消費者(Consumers International)や国際消費者食品組織連盟(International Association of Consumer Food Organization)などの消費者団体、国際酪農連盟(International Dairy Federation)などの生産団体、世界獣医師連盟(World Veterinary Association)や国際食品科学工学連合(International Union of Food Science and Technology)などの学術・職能団体、国際標準化機構(ISO)や国際認定機関フォーラム(International Accreditation Forum)などの第三者認証組織がある。
国際食品規格委員会(コーデックス、CAC)が基準を策定する際に、国際貿易との関係が前回の第20項、34項、38項に記載されていたが、JECFAによる科学的リスク査定を受けて管理基準と管理策を策定するCCFACと執行委員会は、実際に管理に当る各国の担当部署、とりわけ、輸出入検疫との連携=コミュニケーションを図る必要がある。これについての概略を紹介する。
コーデックス提案を採択したFAO /WHO 合同食品規格計画が2001年に刊行した「戦略的枠組み(STRATEGIC FRAMEWORK 2003-2007)」に、戦略目標とその優先順位として次の6項目を挙げているが、「目標1」と「目標3」について紹介する。
目標1:健全な法的枠組みを推進する(Promoting sound regulatory frameworks)
目標2:科学的原則とリスク解析の広範囲かつ一貫した適用を推進する(Promoting widest and consistent possible application of scientific principles and risk analysis)
目標3:コーデックスとその他の多国間協定・条約との関連を強化する(Promoting linkages between Codex and other multilateral regulatory instruments and conventions)
目標4:食品産業部門における新たな問題、重要事項および新規開発について有効かつ迅速に応える能力を増強する(Enhancing capacity to respond effectively and expeditiously to new issues, concerns and developments in the food sector)
目標5:加盟国と参加団体を増やす(Promoting maximum membership and participation)
目標6:コーデックス規格の適用を推進する(Promoting maximum application of Codex standards)
目標1:健全な法的枠組みを推進する
多くの国では<訳注: とくに日本では>、効果的な食品管理は、広域調査(surveillance)、定期検査(monitoring)および法の執行における細分化した法律、複数の管轄権ならびに脆弱性の存在によって損なわれている。健全な国内食品管理制度(national food control systems)と国内食品規制制度(national food regulatory systems)は、自国民の健康と安全を確保するばかりでなく、国際貿易に入ってくる食品の安全性と品質を保証するために必須である。法的枠組みの確立は基本的に国家の責任であるが、CACとその母体であるFAOとWHOは、国際的な原則と指針に基づいて、フードチェーンの全ての構成要素に対処する国内規制制度を普及することに強い関心を持っている。人的資源を含む健全な食品管理と法的基盤の整備は、食品の安全と栄養におけるより高度の水準を達成しようとしている発展途上国にとってとくに重要であり、1999 年にオーストラリア、メルボルンで開催された2000 年以降の世界食料貿易に関する国際会議の報告で強調されているように、それには高度の政治的および政策的関与を必要とする。効果的な食品管制制度は、国際取引に入ってくる食品の安全性を確保するため、および輸入食品が自国の要件を満たすことを確保するために、全ての国に必須である。双方の相互認識あるいは同等性について成功した交渉は、国内規制制度の完全性を相互に保証するための国々の能力に依存している。
国際規格と関連書類の策定におけるCACの優先権は、次の点にある。
● 食品の安全性と衛生、栄養、表示、ならびに、輸出入検査と認証システムと関連する国際規格と指針を継続的に策定することを通して加盟国に基本的指針を提供すること、ならびに、同等性と相互認識の概念について実際の適用のための基本的指針を提供すること、
● フードチェーンの総体を通して健康へのリスクを低減するための国際原則と基準に基づいた国内食品管理制度の策定を促進すること
目標3:コーデックスとその他の多国間協定・条約との関連を強化する
CAC は、単独活動はしないし、それでは機能できない。その他の国際的な規格と規則を策定する関連機関と、密接な共同作業を推進し、共通の関心事について意見交換するために、密接に連動する必要がある。食品の安全性規格の設定のための国際機関として世界貿易機構(WTO)に認定されたことにより、CAC は消費者の健康を保護するための国際食品規格を設定し、食料貿易の公正な業務を確保する義務があり、それらの規格は国内規則と国際貿易の両面において加盟国が利用するものとなる。同時に、CAC は関連する国際機関と緊密に接触して、国際的な規制の発議と策定の責任を果たし、それによって、国際的な政府あるいは非政府組織によって採用される食品規格としての調整を促進する。そのような協力は、作業の重複を最小にするためにも重要である。食品の安全性とバイオテクノロジーのような問題は、世界的な関心があり、様々な多国間の機関で討議を尽くすべき課題である。国際的食品規格における指導的任務に基づいて、CAC は、技術的投資と専門知識を提供し、最新の食品規格と規制方針に関する事項について国際的合意を形成するために貢献するために、関連する多国間の機関や協議会と密接に作業する上で戦略的関心を持っている。
実際の輸出入業務関して、FAO/WHOは1991年に指針策定をCACに委嘱したが、その改定第2版「食品の輸出入における法的検査と認証システム(Food import and export inspection and certification systems - Combined texts (2005))」の目次は下記の通りであり、これも全文76ページに及ぶので、衛生施策の同等性の判定の部分のみを紹介する。
緒言
食品の輸出入における法的検査と認証に関する原則:Principles for Food Import and Export Inspection and Certification (CAC/GL 20-1995)
食品の輸入管理システムに関する指針:Guidelines for Food Import Control Systems (CAC/GL 47-2003)
食品の輸出入における法的検査と認証システムの計画、運営、査定および認証に関する指針:Guidelines for the Design, Operation, Assessment and Accreditation of Food Import and Export Inspection and Certification Systems (CAC/GL 26-1997)
食品の輸出入における法的検査と認証システムについての同等性協定の策定に関する指針:Guidelines for the Development of Equivalence Agreements Regarding Food Import and Export Inspection and Certification Systems (CAC/GL 34-1999)
食品の法的検査と認証システムに関連する衛生施策の同等性の判定に係る指針:Guidelines on the Judgement of Equivalence of Sanitary Measures Associated with Food Inspection and Certification Systems (CAC/GL 53-2003)
一般的な公的認証様式ならびに認証の作業と交付に関する指針:Guidelines for Generic Official Certificate Formats and the Production and Issuance of Certificates (CAC/GL 38-2001)
食品安全の緊急事態における情報交換に関する原則と指針:Principles and Guidelines for the Exchange of Information in Food Safety Emergency Situations (CAC/GL 19-1995, Rev. 1-2004)
輸入食品の不認可に係る国家間の情報交換に関する指針:Guidelines for the Exchange of Information Between Countries on Rejections of Imported Food (CAC/GL 25-1997)
食品の法的検査と認証システムに関連する
衛生施策の同等性の判定に係る指針(CAC/GL 53-2003)
第1節 前文(PREAMBLE)
1. 輸入国と輸出国が異なった法的検査と認証システムを運用している例が、しばしばある。そのような差異が生じる理由には、特定食品の安全上の危害の頻度の差異、食品の安全上のリスク管理についての国民の選択、ならびに、食品管理制度の歴史的発達における差異を含んでいる。
2. そのような状況下において、消費者の健康保護を図りながら貿易を促進するために、輸出国と輸入国は、「衛生植物検疫措置の適用に関する協定(WTO SPS Agreement)の適用に関する世界貿易機構の協定」に規定された同等性の原則に則って、輸入国の衛生保護の適切な水準を達成する上における輸出国の衛生施策の効果を考慮するために共同作業することができる。
3. 同等性の原則の適用は、輸出国と輸入国の双方に相互利益となる。消費者の健康保護を図るとともに、貿易を促進し、輸入国の適正な保護水準を達成するための環境における最も簡便な手段を輸出国が採用することによって、政府、業界、生産者ならびに消費者に対する規制費用を最小にするのに役立つ。
4. 輸入国は、輸出国によって同等性の原則が既に行われた時、不必要な手段の適用を避けなければならない。輸入国は、輸出国に同等性の判定方法が適用された後の検証方法の頻度と範囲を減らすことができる。
第2節 適用範囲(SCOPE)
5. この文書は、食品の法的検査と認証システムに関連する衛生施策の同等性の判定についての指針を規定する。同等性を判定する目的のために、その手段は、計画の策定、実施、および定期検査(monitoring)の社会基盤、ならびに所定の要件(第13項参照)として広範囲に存在する。
第3節 定義(DEFINITIONS)
6. この文書に提示した定義は、コーデックス委員会および「衛生植物検疫措置の適用に関する協定(WTO SPS)」からの引用であり、それらと同一のものである。
衛生施策(Sanitary measure): 食品や飼料中の添加物、汚染物質、毒素あるいは病原体に起因するリスク、動物、植物あるいはそれらの製品に由来する食品によって運ばれる病気に起因するリスク、あるいは、食品中のその他のあらゆる危害に起因するリスクから、当該国の領域内の人々の生命と健康を保護するために適用される施策。
註: 衛生施策は、全ての関連法、政令、規則、要件および手順を含む。とくに、次のものを含む; 最終製品の基準; 処理工程と生産方法; 試験、法的検査、認証および承認の手順; 関連する統計的手法に関する規定、採材手順、およびリスク査定の方法; 食品安全と直接関連する包装と表示の要件。<訳注: SPS協定の訳語として「measure=措置」となっているが、ここの定義からは、具体的対処法に限定されない包括的概念と考えられるので、あえて「measure=施策」と訳した。>
危害(Hazard): 健康への悪影響の原因となり得る食品に含まれるか、または、食品の状態に関する生物学的、化学的あるいは物理的要因。
リスク(Risk): 食品の危害の結果として起きる健康への悪影響の発生確率と重篤度の関数。
リスク査定(Risk Assessment): 科学に基づく処理工程で次の手順からなる:(i)木々の特定、(ii)危害の特性解明、(iii)暴露査定、(iv)リスクの特性解明。
衛生保護の適切な水準(ALOP : Appropriate level of sanitary protection): 国家がその領域内の人々の生命と健康を保護するために定める衛生施策による適切とみなされる保護水準。この概念は、「許容リスク水準(acceptable level of risk)」と言い換えることもある。
衛生施策の同等性(Equivalence of sanitary measures): 同等性とは、輸出国に適用されている衛生施策が、輸入国に適用されている衛生施策と異なるものの、輸出国によって証明されるものとして、輸入国の衛生保護の適切な水準を達成する状態を言う。
第4節 同等性の判定に関する一般原則(GENERAL PRINCIPLES FOR THE DETERMINATION OF EQUIVALENCE) 省略
第5節 同等性の判定の内容(THE CONTEXT OF AN EQUIVALENCE DETERMINATION)
13. 同等性を判定する目的のため、食品の法的検査と認証システムに関連する衛生施策は、下記のように広範囲に分類される。
a) 社会基盤: 法的根拠(たとえば、食品衛生法)と行政機関(国と地方の行政当局、執行機関などの組織)を含む。
b) 計画の策定、実施、および定期検査: 制度、定期検査、実施、決定基準と執行、検査能力、輸送基盤と認証と監査の方法などの文書化を含む。
c) 所定の要件: 個々の施設(たとえば、家屋の設計)、設備(たとえば、食品と接触する機械の設計)、処理工程(たとえば、HACCP計画)、処理手順(たとえば、食肉の解体前検査と解体後検査)、試験(たとえば、微生物学的および化学的危害についての試験室検査)、ならびに、採材と法的検査の方法を含む。
第6節 比較の客観的根拠(OBJECTIVE BASIS OF COMPARISON) 省略
第7節 同等性の判定に関する手順(PROCEDURE FOR THE DETERMINATION OF EQUIVALENCE)
17. 輸入国は、輸出国の求めに応じて衛生施策の詳細を提供しなければならない。輸出国は、該当する食品に関する輸入国の利用可能な全ての衛生施策を吟味し、同等性の判定の求めに対して該当食品が適合していることを確認しなければならない。輸入国と輸出国は、さらに、同等性の判定を促進するために関連情報の交換に関する協定手順を使用しなければならない。この情報は、この目的に必要とされるものに限定されるべきである。
18. 同等性の判定は、以下の記述と図1に示した一連の手順に従って、輸出国と輸入国の双方によって進められる。その当事者は、合意に達することを目標に協調的態度でそれらの手順を進めなければならない。
a) 輸出国は、輸入国に対して異なった衛生施策の適用を望み、その施策の根拠と目的を要求する場合、輸入国の衛生施策を確認する。
b) 輸入国は、第6項に従って指定された衛生施策ならびにその他の関連情報の根拠と目的を説明する。
c) 第6項に従って、輸入国は、輸出国によって提示された衛生施策と自国の衛生施策との比較に関する客観的根拠(objective basis)を可能な限り正確に明記しなければならない。輸出国の主導によって、輸入国と輸出国は、合意に達することを目的として、比較の客観的根拠に関して意見交換に入らなければならない。
d) 輸出国は、リスク査定またはそれに匹敵するその他の適切な方法を用いて、異なる衛生施策の適用が輸入国の「衛生保護の適切な水準(ALOP)」を達成することを証明するための提案を作成し、輸入国に提示する。
e) 輸入国は、その提案を吟味し、適切であるなら、輸出国の施策が輸入国のALOPを達成するかどうかを決定するための提案として扱う。
f) 輸入国が提示された提案について何らかの懸念を抱いたならば、それらを輸出国にできるだけ早い機会に通知し、懸念の理由を詳述しなければならない。可能なら倍、輸入国は、その懸念にどのように対処するかを提案しなければならない。
g) 輸出国は、更なる情報提供、提案の修正、あるいはその他の適切な処置によって、その懸念に対処しなければならない。
h) 輸入国は、提案の衛生施策が同等でない、すなわち、輸入国のALOPを達成しないという判定をした場合、適切な期間内にその判定を輸出国に通知し、その決定の理由を示す。
i) 暫定あるいは最終提案の判定に係るあらゆる見解の相違を解決する試みが行わなければならない。
第8節 判定(JUDGEMENT)
19. 輸入国による同等性の判定は、客観性と一貫性があり、透明性のある解析手順に基づかなければならず、実施可能かつ妥当は範囲の全ての利害関係者との協議を含まなければならない。
20. 衛生施策についての同等性の判定は、以下の事項を考慮しなければならない。
a) 輸出国の食品の法的検査と認証システムの経験、知識、および信頼性(第5項を参照)。
b) 輸出国から提出された添付資料。
c) 比較の客観的根拠に反映される輸出国が指定した衛生施策と輸入国のALOPとの間の関連性の強さの解析(第6項を参照)。
d) その指標は、可能な限り量的表現で表さなければならない。
e) 食品中の危害の管理水準が定量的でない場合の質的表現の妥当性。
f) データの変動性およびその他の不確実性の原因についての考慮。
g) 輸出国が指定した衛生施策に関して予測される健康へのあらゆる影響についての考慮。
h) 食品の安全性に関わるとして検討されている事柄に該当するコーデックス文書
21. 同等性の如何なる判定の後も、輸出国と輸入国は、同等性の原判定に影響する可能性がある支持計画と社会基盤における重要な変化について、速やかに相互に助言しなければならない。
図1. 同等性の決定のための簡便化した流れ図
(個々の手順は繰り返されることがある)
以上、コーデックス委員会が食品の安全性に関して国際規格を策定する手順と実際の意義を概括してきたが、「100%安全」を主張する方々に届いたであろうか? 日本が加盟している国際機関が定めた規則、基準、規格は国として遵守する義務があり、ここに紹介したものは大量の食料を輸入している現実の中で履行されている規則の極一部である。「衛生管理責任者等講習会資料」の「1.1:国際的食料事情、WTO体制、Codex委員会」に紹介してあるが、国際連合は2005年に「新世紀の発展目標に関する報告」を出した。8つの目標の筆頭に上げたのは、「極度の貧困と飢餓の克服」であり、目標 4 の「小児死亡率の低減」、目標 5の「母体の健康増進」は、十分な食料の確保と関係する事項である。また、目標 7の「環境の持続性を確保」は食糧生産とも関係している。こうした世界の食料状況の中で、先進国と発展途上国の安全性水準が不均一となっており、その調和を図るためにコーデックス委員会が奮闘しているのである。その努力に対して、「コーデックスはアメリカ寄りだ」といった矮小な批判がなされているが、国際機関の役割についての認識不足という他はない。「アメリカ寄りかEU寄りか」が問題なのではなく、発展途上国を含めた国際社会の調和をどのように図るかが重要なのである。
食品の安全に関する日本国内の動向をみていると、そうした国際情勢を全く無視した「不安の大合唱」である。これを見ている各国の大使が、「日本が国連常任理事国に立候補するなんてとんでもない」と本国に報告することは当然であろう。「政府が勝手に立候補しているのであって、日本国民は自分の安全しか考えていない。国際社会の調和に関して、日本国民は全く関心がなく、国際社会を領導できる国民ではない」という判断されても仕方ないであろう。戦後民主主義教育の破綻が随所に現れており、食育教育の推進も単なる栄養バランスに終始している状態では、日本の将来は危うい(もろもろの話
「公園では遊べない!」を参照)。資金提供だけで実質権限がない日本政府の国連常任理事国進出願望を揶揄するマスメディア(テロリスト以下のモラル)が、「ゼロ・リスク」を扇動して日本国民を世界の孤児に仕立て上げようとしているのだから、始末に終えない。