基準設定の手順: コーデックス(1)
鹿児島大学獣医公衆衛生学教授 岡本嘉六
アフラトキシンを例として、Charles Yoe博士のリスク査定についての講演を紹介し、具体的な基準についてみてきたところで、それらの基準を設定する手順を紹介する。先ず、国際規格を設定しているコーデックス委員会の「手順便覧(Codex Alimentarius Commission - 15th Procedural Manual)」の概要を紹介するが、165ページに及ぶ膨大な文書なので、要点だけしか扱えないことをお断りする。
緒言
国際食品規格委員会(Codex Alimentarius Commission)の手順便覧は、加盟国政府がFAO /WHO 合同食品規格計画の作業に効果的に参加するのを手助けすることを目的とする。この便覧は、とくに、コーデックスの会議に出席する国家の代表団ならびにオブザーバー参加する国際機関に役に立つ。また、文書によってコーデックスの作業に参加する加盟国にとっても有用である。
第 I節には、委員会の目的を遂行するために必要な委員会に係る法令、手順の規則、およびその他の内部手続きを明示している。これらには、コーデックス規格と関連文書、一般的原則と基本的な定義に関する詳細な手順が含まれる。
第II節は、コーデックス委員会と専門委員会の効率的運営のための手引き書である。これらの委員会と専門委員会は、コーデックス委員会によって指定された加盟国政府によって組織され、運営されている。この節では、どのようにして規格が一定の方法で設定されるか、コーデックス文書と作業文書に関する一定の基準体系、コーデックス規格の鍵となる節として一連の一般的原則、ならびに、各国のコーデックス担当組織(Contact Point)の中心的機能について記載している。
第III節は、委員会とその下部組織が適用するリスク解析についての政策文書を含む。
第IV節は、委員会の下部組織について委任事項と委員会の構成を一覧で示している。
委員会の一般的決定事項は付属文書に再掲してある。
第15版の手順便覧は、2005年にローマで開催された国際食品規格委員会の第28会期に引き続いて事務局が用意した。・・・・・
第 I節
本節の内容 国際食品規格委員会の設置法とその手順に係る規則は、委員会自体が設立された1961〜62年のFAOコンファレンスと世界保健機構総会によって最初に決められた。設置法は1966年に改定された。手順の規則は、何回か修正され、2005年がその最終である。設置法は、委員会活動の法的根拠であり、任務あるいは委任事項を規定している。手順の規則は、政府間機関としての適切な公的作業手順を規定している。 コーデックス規格を検討するための手順には、コーデックス規格が用意される方法、ならびに、政府およびその他の利害関係団体による規格案の包括的な見直しを確保するための過程における様々な段階(Step)が記載されている。手順書は、全てのコーデックス規格と関連文書について一定の検討手順を規定するために、1993年に全面的に改定された。さらに、戦略的計画の立案(strategic planning process)と徹底した再吟味(critical review)を導入するために、2004年に改定された。 国際食品規格委員会の一般的原則は、コーデックス規格の範囲と目的を定義している。この節は、国際食品規格委員会と国際的な立会人組織(observer organization)との関係を管理する原則と手引書を含む。 この節は、それらの文書について一定の解釈を助けることになる、国際食品規格委員会の目的の定義で締め括る。 |
本節には以下の項目についての記載があるが、リスク・コミュニケーションと関連する「国際食品規格委員会の作業における国際的非政府組織の参加に関する原則」についてのみ翻訳する。タウン・ミーティング等の無原則的コミュニケーションが問題となっているように、利害関係者の係わり方を明確にしないと無政府状態と変わらないことになるからである。国政選挙の投票率が50%に満たない状態で、長時間の意見表明に自由参加する集団は極めて限られていることは容易に推定され、そういう集団とコミュニケーションすることで基準が左右されるのでは堪ったものではない。そうした偏りを防ぐためにロボット質問者を用意する主催者がいても不思議ではない。そして莫大な税金が浪費されている。こうした混乱は、定義不明のカタカナ語が氾濫する中で起きていることである。海外においては明確に定義されている用語を、正確な日本語に訳し、国民の理解を広めることが肝心である。コーデックスは国際的なコミュニケーションを図る原則を示しており、それは国内的コミュニケーションを図る原則にも通じる。民主主義の大原則の下で国民の意思を汲み上げるコミュニケーション方式とはどのようなものか?
● 国際食品規格委員会の設置法(Statutes of the Codex Alimentarius Commission)
● 国際食品規格委員会の手順に係る規則(Rules of Procedure of the Codex Alimentarius Commission)
● コーデックス規格と関連文書の検討手順(Procedures for the Elaboration of Codex Standards and Related Texts)
● 国際食品規格委員会の一般的原則(General Principles of the Codex Alimentarius
● 規格と関連文書の検討における国際食品規格委員会と国際的政府間組織との共同作業に関する手引き(Guidelines on Cooperation between the Codex Alimentarius Commission and International Intergovernmental Organizations in the Elaboration of Standards and Related Texts)
● 国際食品規格委員会の作業における国際的非政府組織の参加に関する原則(Principles Concerning the Participation of International Non-Governmental Organizations in the Work of the Codex Alimentarius Commission)
附属文書: 「立会人の資格」を求める国際的非政府組織に要求される情報(ANNEX: INFORMATION REQUIRED OF INTERNATIONAL NONGOVERNMENTAL ORGANIZATIONS REQUESTING “OBSERVER STATUS”)
● 国際食品規格委員会の目的の定義(Definitions for the Purposes of the Codex Alimentarius)
国際食品規格委員会の作業における国際的非政府組織の参加に関する原則
1. 目的
国際的非政府機構と共同作業する目的は、国際食品規格委員会に対する国際的非政府組織からの専門的な情報、助言ならびに支援を確保し、大衆の見解を代表する重要な部門ならびにその分野において専門的および技術的に適格な専門家集団がその構成員の見解を表明することを可能にし、さらに、国、地域あるいは国際的局面において関係する様々な分野の団体の間にある利害の調和を図るために適切な役割を担うためである。そのような組織とともに行われる打合せは、計画の遂行において国際的非政府組織からの最大限の協力を確保することによって、国際食品規格委員会の目的を達成するために計画されなければならない。
2. 関係の種別
いわゆる「立会人の立場(Observer Status)」という、一つの種類の関係のみが認知される。その他の全ての関与は、作業上の関係を含めて、非公式の性格とみなされるべきである。
3. 「立会人の立場」として適格な組織
以下の要件が立会人の立場の資格に必須である。
● FAOにおける顧問、専門的助言者、あるいは連携者としての立場にある国際的非政府組織
● WHOと公的関係をもつ国際的非政府組織
● 次の国際的非政府組織
(a) 活動の構成と範囲が国際的であり、彼らが活動している専門分野を代表する
(b) 委員会の活動分野の一部または全てに関係する件に関与している
(c) 国際食品規格委員会の設置法に合致する狙いと目的を持っていること
(d) 恒久的な指導部と事務局、正式代表者と種々の国の構成員と意見交換するための組織手順と機材を有していること。その構成員が、方針や活動に関して投票権を行使するか、または、彼らの意見を表明するための適切な手続きを備えていること。
(e) 組織されてから立会人の立場を申請する前に少なくとも3年経過していること
第(a)項の目的として、少なくとも3カ国において構成員を有して活動している国際的非政府組織は「活動の構成と範囲が国際的」であると看做されなければならない。FAOとWHOの長官―局長は、国際食品規格委員会の目的遂行のために重要な貢献を果たすことが申請書から明確である場合、執行委員会の助言に基づいて、これらの要件を満たさない組織に立会人の立場を与えることがある。
4. 「立会人の立場」を取得する手続き
4.1 FAOまたはWHOと公的関係をもつ国際的非政府組織 (省略)
4.2 FAOまたはWHOと公的関係をもたない国際的非政府組織
国際的非政府組織とあらゆる形式の公的関係を持つ前に、当該組織はこの手順書の附属文書に規定された情報を委員会の事務局長に提出しなければならない。
委員会の事務局長は、当該組織から提供された情報の完全性を検証し、当該組織が本原則の第3節に規定された要件を満たすかどうか最初の査定を行う。疑わしい場合には、事務局長はFAOとWHOの長官―局長と相談し、必要に応じて、当該組織に更なる情報と説明を求めることがある。
前項で言及した検証と査定が満足のいく結果を迎えた時、委員会の事務局長は、国際食品規格委員会の手続きの規則Rule IX 6に従って、申請者から受取った申請書類と全ての関連情報を、助言を求めるために執行委員会に提出することになる。・・・・・
5 権利と義務
立会人の立場にある国際的非政府組織は、以下の権利と義務を持つことになる。
5.1 「立会人の立場」にある国際的非政府組織の権利
立会人の立場にある国際的非政府組織は、以下の権利を有する。
(a) 委員会の会議に立会人(投票権がない)を送り、助言者を同伴しても良いこと、会議の進行において全ての作業文書と討議資料を委員会の事務局長から受理すること、抄本なしの書面で意見を委員会に回覧すること、ならびに、議長に求められた時に議論に参加することの権利を有する。
(b) 指定された下部組織の会議に立会人(投票権がない)を送り、助言者を同伴しても良いこと、会議の進行において全ての作業文書と討議資料を下部組織の事務局から受理すること、抄本なしの書面で意見を委員会に回覧すること、ならびに、議長に求められた時に議論に参加することの権利を有する。
(c) FAO/WHO合同国際食品規格計画の下で組織化された課題に関する当該分野の会議や研究集会に参加するよう長官―局長から招待されることがあり、参加しない場合にはそれらの会議や研究集会に書面で意見を提出することができる。
(d) 事務局と同意した課題について計画された会議に関する文書と情報を受取る。
(e) 委員会の開催前に案件に対する意見書(委員会で使用する言語の一つで書かれた)を、運営団体の権限下で、事務局長に提出することができ、事務局長が適切と判断した場合にはそれを委員会または執行委員会に伝えることがある。
5.2 「立会人の立場」にある国際的非政府組織の義務
立会人の立場にある組織は、以下のことをしなければならない。
(a) FAO/WHO合同国際食品規格計画の目的を推進するため国際食品規格委員会と十分に協力すること。
(b) FAO/WHO合同国際食品規格計画の範囲内の活動を調整する方法と手段を決定するために、反復と重複を避ける目的で、事務局と協力すること。
(c) 適切な討議あるいはその他の公開形式によって、国際食品規格委員会とFAO/WHO合同国際食品規格計画についての知識と理解を広めるために、可能な限り、および、長官―局長の求めに応じて、貢献すること。
(d) 委員会の活動範囲の全てまたは一部と係わる事柄に関係する報告書と刊行物を、委員会の事務局長に送付すること。
(e) 組織構造と構成員の変更、事務局の重要な変更を、本原則の附属文書に従って提供される情報についてのその他の重要な変更と同様に、委員会の事務局長に速やかに報告すること。
6. 「立会人の立場」の見直し
組織が立会人の立場が与えられた時点で適用された基準をもはや満たさなくなった場合、あるいは例外的理由によって、本節で指示された手順に従って、長官―局長は、立会人の立場を終了させることができる。・・・・・
つづく