国別基準と国際基準(2

 

前回、コーデックスが定めた国際基準として「乳: アフラトキシンM1として0.5 μg/kgppb)」を紹介したが、FAOの「食品と飼料のカビ毒に関する法的規制(Worldwide regulations for mycotoxins in food and feed in 2003)」に記載されている各国の規制値は下図の通りである。EU諸国の大半は0.05 μg/kgであるが、米国圏、欧州の一部の国では0.5 μg/kgとしている。

さて、日本はどうなっているのか? 実は、これを調べるのは困難を極める。厚生労働省のホームページや法令を検索しても出てこない。前回、「全ての食品について10ppb」というFAOの報告を紹介したが、国内的にはカビ毒(アフラトキシン)を含有する食品の取扱いについて() (昭和46316日、環食第128)」に、「当該検査方法によりアフラトキシンが検出された食品は食品衛生法第4条第2号に違反するものとして取扱うこととしたので御了知ありたい」とされているだけである(検査方法は削除されている)。この通達後、平成15年に食品衛生法が大改正され、第4条は第6条にそのまま移動したが、条文は次の通りである。

「第六条 次に掲げる食品又は添加物は、これを販売し(不特定又は多数の者に授与する販売以外の場合を含む。以下同じ。)、又は販売の用に供するために、採取し、製造し、輸入し、加工し、使用し、調理し、貯蔵し、若しくは陳列してはならない。

一 腐敗し、若しくは変敗したもの又は未熟であるもの。ただし、一般に人の健康を損なうおそれがなく飲食に適すると認められているものは、この限りでない。

二 有毒な、若しくは有害な物質が含まれ、若しくは付着し、又はこれらの疑いがあるもの。ただし、人の健康を損なうおそれがない場合として厚生労働大臣が定める場合においては、この限りでない。

三 病原微生物により汚染され、又はその疑いがあり、人の健康を損なうおそれがあるもの。

四 不潔、異物の混入又は添加その他の事由により、人の健康を損なうおそれがあるもの。」

この但し書きの部分については食品衛生法施行規則において、次のように記載されている。

「第一条 食品衛生法第六条第二号ただし書の規定による人の健康を損なうおそれがない場合を次のとおりとする。

一 有毒な又は有害な物質であつても、自然に食品又は添加物に含まれ又は附着しているものであつて、その程度又は処理により一般に人の健康を損なうおそれがないと認められる場合。

二 食品又は添加物の生産上有毒な又は有害な物質を混入し又は添加することがやむを得ない場合であつて、かつ、一般に人の健康を損なうおそれがないと認められる場合。」

FAOの報告にある全ての食品について10ppb」という基準はどこを探しても見当たらない。FAOは、ウソを書いているのか? その事情を食品安全委員会のホームページにみつけた。食品安全委員会かび毒・自然毒等専門調査会 第6回会合議事録(平成1 8 1 0 3 0 日)において、「アフラトキシンB 1 は、対象食品は、一応、ここに書いてありますけれども、全食品が対象になっておりまして、といいますのは、食品衛生法第6 条によって規制されているからでございます。ただし、ここに書いてありますものは、分析法が通知されている品目と御理解いただければと思います。・・・・・アフラトキシンB 1 は、何度も申し上げるようですが、今、食品衛生法として規制されておりますので、基準値は決まっておりません。そういう状態でございます。」と担当専門委員から説明されている。要するに、「汚染していてはならない」というタテマエだけが法律で決められているに過ぎないようだ。

こんなことで現実対応が可能であろうか・・・。実際の輸入検疫ではどうなっているのか? 厚生労働省からリンクされている日本貿易振興機構(ジェトロ)に掲示されている「食品衛生法に基づく食品・食品添加物等の規格基準(抄)」では次のように記載されている。ジェトロもウソをついているのか?

区分

規格基準

備考

アフラトキシンの規制値

ピーナッツ及びピーナッツ製品(ピーナッツバター、ピーナッツフラワー等)。

ピスタチオンナッツ、アーモンド、ブラジルナッツ、カシュナッツ、ヘーゼルナッツ、マカデミアナッツ、クルミ、ジャイアントコーンにも準用する。

10ppb以下(アフラトキシンB1

FAOもジェトロもウソをついているのではないことが、先に「検査方法は削除」と書いたが、改正された食品衛生法の下での新たな検査方法が通達として出されていることが判った。平成14326日 食監発第0326001号「カビ毒(アフラトキシン)を含有する食品の取り扱いについて」に記載されている分析法を抜粋すると、「高速液体クロマトグラフイーによる分析の場合、試験溶液のピーク面積がアフラトキシンB1標準溶液のピーク面積を上回る場合は陽性と判断する」とあり、試験溶液の試料の濃度と標準溶液(2.5ngml)をもとに計算すると検出限界は10ppbとなる。しかし、これは検査方法であって基準値ではないというのが規制当局の見解である。この見解は、フツーの頭では理解できない理屈であるが、もう一つ別の通達があり、それをみると基準値でないことが判ってくる。

平成18713日 食安監発第0713001号「トウモロコシ中のアフラトキシンの試験法について」がそれである。いくつかの簡易キットの検査方法が指定されており、たとえば、「チャームROSAアフラトキシンテスト」と「RIDAスクリーンFASTアフラトキシン」では「4ppb以下の場合、陰性とする」、「アフラカードB12ppb)」では「キットにおいて陰性とされる場合、検体を陰性と判断する」とある。要するに、検査方法によって判定値が異なるので基準値でないということである。トウモロコシでは簡易キットを使うため、検査精度との関係で10ppbより低めに設定しているようだ。

Charles Yoe博士 <アフラトキシンのリスク査定:「レッド・ブック」モデル教材>

 

現実対応では検査方法によって規定される10ppb以上を「アフラトキシンを検出した」とし、それ以下を「アフラトキシンは検出されなかった」としているのだが、10ppbは基準値ではないという複雑な表現をしているのは、食品衛生法第6 条を貫くためである。これによって、日本国内では有毒なアフラトキシン汚染した食品は流通していないというタテマエが貫かれることになる。「ゼロ・リスク」を貫徹するためには、頭の回線を混乱させる必要があるのだろう。

頭の「良い子」が考えることは、フツーの頭では理解できない。海外から「規制緩和」を求められてきたが、その真意は「規則を撤廃する」とか「基準を緩める」ことよりも、「規則を明文化する(Rule Making)」ことであると私は指摘してきた。1997年に書いた「米国で許可された食肉および食鳥肉の解体処理工程における抗菌処理」では、「日本の食品添加物の要件は非常に複雑である.輸出者は、全ての添加物が日本で許可されていることを証明するために、新たな製品のサンプルを厚生省の検査官に提出しなくてはならない.輸出者は、日本に輸出する製品に含まれる添加物が適格であることを確認するために輸入者と共同作業した方がよい」と米国の輸出管理当局が嘆いていることを書いた。その事態は今も変わっていない。

 

霞ヶ関の 寛容性のない「良い子の横並び」が、日本をダメにする!

もろもろのはなし「いじめと汚職