アフラトキシンのリスク査定: 「レッド・ブック」モデル教材
Aflatoxin Risk Assessment: “Red Book” Model Exercise
Charles Yoe博士、ノートルダム大学、メリーランド
この翻訳は、岡本個人が国民教育の教材提供として行うものであり、一切の営利活動とは関係していない。この資料を商業的に利用される方は、「Food Safety Risk Analysis Clearinghouse」とCharles Yoe博士の許可を直接得てください。また、誤訳等があり得ることもお断りしておきます。
No.41 動物を用いた研究には、利点と欠点があります。低濃度領域におけるデータが得られないこと、一つの動物種から別の動物種に外挿する必要があること、この二つが大きな欠点である。信頼区間を用いようが、用いまいが、直線的外挿を用いることによってしばしば問題が起きる。 |
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No.42(グラフにおいて赤で示した部分は、岡本が追加した) それぞれの青丸が実験結果を示していると想像してください。これらの青丸に合致する用量―反応曲線が統計学的技法を用いて推定されました。推定された用量―反応曲線の上側にある信頼区間も、伝統的な統計学的技法を用いて計算されました。推定された用量―反応曲線は水平軸(ゼロ)に突き当たり、このことは閾値を意味します。上側にある信頼区間の曲線を用いると、閾値を推定することはできません。 |
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これらの統計学的技法に関しては、我々が観察したデータはグラフの中央からやや左よりで終わります。この用量より低いところで何が起きているのかについて我々は何の情報も持ち合わせていませんが、人間が暴露されるのはしばしばこの用量なのです。 この情報を外挿する一般的な一つの方法は、直線的外挿です。この例では、推定された用量―反応曲線自体ではなく、その上側にある信頼区間の曲線から外挿しています。外挿は直線である必要はありません(上下の曲線)。直線でない関係は、直線よりも実際の用量―反応関係を表現できるかも知れません。いくつかの非直線的外挿が考案されている。 これが科学の全てでないことは明らかです。リスク査定に固有の控え目な仮説は、人間の健康と生命の保護に基づいて正当化される。このような決定は、実際には、リスク査定よりもリスク査定管理の役割である。おそらく、スライドNo.2に示したリスク解析のモデルにおいて、査定と管理の間に共通部分と曖昧さがあったことを、あなたは思い出しませんか? その一つの例がここにあります。 専門用語の要点。特定用量としてゼロが採用されるならば、我々は内挿(interpolating)することになる。それができない場合に、我々は外挿(extrapolating)することになる<岡本註:閾値があるとする用量―反応曲線を用いた場合と、その上側の信頼曲線を用いた場合>。文献では両者の代替性が記載されている。ここでは、外挿を用いた。 典型的には、我々は癌が過剰発生する耐用率、すなわち、100万人に一人(10-6)を選択し、その耐用率に相当する用量を見つけ出す。その用量は、一日許容濃度(acceptable daily dose)とみなされる。これらのデータの別の利用法であり、我々がここで使うのは、癌に関する「単位リスク(unit risk)」を得るために外挿した直線の傾きを計算することである。 (訳註:「単位リスク」とは、発癌性物質に生涯暴露された時の単位濃度当りの発癌確率。水では1μg/リットル、大気では1μg/立方メートルが単位濃度) |
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No.43 この外挿によって生じる潜在的偏りは、何ですか? 癌のリスクは過大または過小に評価される可能性があります。 このことは科学ではありませんが、毒性学的データと最新の統計学的技法に基づいています。この手法は、EDI/ADI比を使用する大半の化学的な食品安全査定の方法である安全係数に基づきません。動物からヒトへの実験結果を外挿する別の方法です。食品の安全性に対する二つの解決方法の主要な相違点です。 |
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これらの主観的な判断は研究室で働く科学者を悩ますことになりますが、決定しなければならず、先に示した我々の質問を思い出してください。何かをしなければなりませんが、決定する前に科学者が彼らの情報に完全に満足するまで、我々は待ち切れないのです。 岡本註: EDIは推定一日摂取量(Estimated Daily Intake)、ADIは1日許容摂取量(Acceptable Daily Intake)であり、EDI/ADI比が高いと残留許容濃度(MRL)を再検討することになる。 |
No.44 このアフラトキシンの査定に使われた利用可能な用量−反応データは、いくつかの潜在的弱点を持っていました。 |
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No.45 用量―反応データは、個々人に対するリスクを述べません。集団のために開発されたものです。 世界におけるB型肝炎の流行状況が異なることを考える時、スライドに示した上から2番目の黒丸の例は、明らかに確かな証拠となります。 |
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No.46 食習慣が重要であり、世界の中で劇的に異なっていることが判明した。このことから、リスクも同様であると考えられる。 |
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No.47(スライドは岡本が若干修正した) B型肝炎に罹患しているヒトと罹患していないヒトに関するFAO/WHO合同食品添加物専門家委員会(JECFA)のデータをここに示した。これらの活性値(potency value)は、先に示したスライドの直線的外挿の傾きのことである。この値は、後で練習のためにあなたが計算する際に使うことになります。 100%の確実性をもって活性値を特定することはできません。このことを考慮して、JECFAは活性値を区間推定した。 |
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No.48 我々は、リスク査定手順の第2歩段階に入った。さて、アフラトキシンへの暴露を考えてみよう。暴露査定は、リスク査定のどのような局面で開始され、続けられるのか? 食品に関しては、一般的に、2種類の情報がある。一つは、食品中の当該物質の濃度である。もう一つは、人々がそれらの食品をどの程度摂取するかである。 |
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No.49 我々の解析において汚されていないロットを無視するならば、我々は偏ったデータを使っていることになる。それは問題がなく、賢明であるかもしれないが、このこと(データの偏り)を認識しておかなければなりません。我々は、しばしば、データの特定の測定値よりも、むしろ、データのパターンにより関心を持ちます。 (つづく) |
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