丸大食品が自主回収していた、中国製牛乳を原料にした商品のうち、菓子など四商品から有害物質のメラミンが検出された。大阪府と高槻市保健所、丸大が発表したもので、国内でメラミン混入商品の流通が確認されたのは初めてだ。
大阪府などは健康への影響はない量だとしているが、中国製の加工食品への消費者の不信が加速することは避けられまい。日本の輸入食品に対する安全管理の危うさがあらためて浮き彫りにされた格好だ。
検出されたのは、検査対象六商品のうち一般消費者向けの総菜「グラタンクレープコーン」、菓子「クリームパンダ」など三商品に、病院給食などの業務用菓子「クリームパンダ」を加えた四商品。メラミン混入が判明した中国の大手乳製品メーカー「伊利集団」の牛乳を使い、丸大の中国子会社が加工、製造していた。これまでに合計約三十五万袋の商品が出荷され、大半は消費されたとみられる。
メラミンは合成樹脂の原料で、食品への使用は想定されていない。メラミンを加えるとタンパク質の含有量を多く見せ掛けることができるため、中国の一部業者が、水などで薄めた牛乳にメラミンを混ぜたのが問題の発端となった。
中国ではメラミン混入の粉ミルクが原因で五万人を超える乳幼児が健康被害を訴え、死者も出た。韓国や台湾などでもメラミン混入の食品が見つかっており、各地で中国製品の廃棄や輸入禁止の動きが広がっている。被害拡大の原因は、中国当局の品質検査の欠陥と対応の遅れにあったと言わざるを得ない。
政府は中国に対して検査体制の徹底強化と安全確保を強く求めるべきだ。日本の企業や行政の対応も後手に回った感は否めない。メラミンが食品には使わない有機化合物であるため、食品衛生法の検査項目に入ってなかったためだ。政府は検疫の在り方を見直すべきではないか。
厚生労働省は食品衛生法に基づき、中国から輸入される乳製品を原料とした加工食品について、検査を徹底するよう輸入業者などに命令した。
食料の大半を輸入に頼っている現状では、相手国に依存するだけでは安全性は確保できまい。トレーサビリティー(生産履歴)の徹底や、原料も含めた自社の一括管理など、日本側も企業と行政が連携を深めて主体的にチェックする必要がある。中国製ギョーザ中毒事件に続き、食の安全を脅かす深刻な事態だ。日中両国は厳しい姿勢で対応しなければ信頼回復はおぼつかない。
国際原子力機関(IAEA)の次期事務局長候補として、日本政府は天野之弥・駐ウィーン国際機関代表部大使を擁立することになった。
IAEAは原子力の平和利用促進や軍事利用の防止などを目的にした国際機関で、「核の番人」とも呼ばれる。現在百四十五の国が加盟し、事務局長は組織のトップである。
二〇〇五年にノーベル平和賞を受賞したエルバラダイ事務局長が、次の事務局長選に出馬しない意向を表明したため、日本政府が名乗りを上げた。エルバラダイ氏の任期は来年十一月までで、選挙戦は今年十月にスタートする。
事務局長ポストには複数の国が関心を示している。当選には三十五カ国の理事会で、三分の二の支持が必要だ。日本政府は既に水面下で関係各国に働き掛けを始めており、選挙戦では日本の外交力が問われよう。
ただ、しっかりわきまえておきたいのは、「世界唯一の被爆国」である日本がIAEAのトップを狙う意味合いだ。通常の国際機関と同列に考えるわけにはいくまい。
そもそも政府がIAEA事務局長に日本人を就かせて、何をどうしようというのか。国際社会はもちろん、国民に対しても明確な目的を訴える必要がある。国際社会における存在感の強化が主な狙いなら、理解は得られないだろう。
世界は今、北朝鮮やイランの核問題をはじめ、インドへの原子力関連資機材の輸出解禁決定など核拡散防止条約(NPT)体制が大きく揺らいでいる。日本が核廃絶を唱えるだけでは効果は薄い。NPT体制を引き締めるための具体的な方策と率先して行動する強い決意を示し、IAEAのトップを狙ってもらいたい。
(2008年9月28日掲載)