激動の1週間、でもいつ終わるのかは全く不明
テーマ:お仕事(?)がらみ強烈な1週間だった。
投資銀行が相次いで銀行持ち株会社化、増資へ。
市場での資金調達に頼ると、資金繰り不安から市場で足下見られるので。
PDCFのような臨時の手段ではなく、PermanentにFEDから資金が取れるような形にする、ということと。
レバレッジ比率の低下を余儀なくされ、ROEの低下が目に見えているので。
レバレッジが低くても儲かるように、資金調達コストの削減を図らなければならず。
低利安定的な資金調達手段である、銀行預金を獲得したい、という意図。
加えて、今後地銀がどんどん統合されていくことになるので。
(旧)投資銀行が持つ、RTC処理に当たって培った不良債権処理と証券化のノウハウの蓄積が必要とされることとなり。
さらに、きれいになった地方金融機関の受け皿にもなれる、というのが銀行持ち株会社化の大まかな狙い。
そして、追加資本調達。
銀行持ち株会社化するには、レバレッジ比率を下げなければならず。
アセットの削減によるデレバレッジは、この市場環境では相当困難で。
資本調達によるデレバレッジがどうしても必要になる。
MUFGによる、MSへの8000億円の普通株出資。
報道された20%の出資なら、持ち分法が適用され、MSのPLの20%が毎期MUFGのPLに反映されることに。
GSは10%の配当の優先株で、100億ドルの資本調達。
メリルですら優先株への配当は8.625%程度だったのに。
それも、In the Moneyのコールオプションのおまけ付きで。
GSですら1兆円強の資本が追加で必要で。
その資本を調達するために、極めて高い配当を約束せざるを得ない、という事実が明らかになり。
週央に、ドル市場で危険な兆候が大量に出現。
TEDスプレッドが3%台に。
2年スワップスプレッドが一日で30bpも広がって160bpに。
期越えの1週間Liborが4%台に。
そしてWaMuがS&PからCCC格に格下げ。
香港3位の銀行で取り付け騒ぎ。
上院銀行委員会と、下院金融委員会が、不良債権買い取り計画で合意、と伝えられ。
相場は戻したのもつかの間。
下院金融委員会委員長が、「合意に達した事実はない」との談話。
市場が待ち望んでいた好材料で戻してから、それを否定する悪材料が出るのと。
何もないところから悪材料が出るのでは。
結果は一緒なのだが。
市場に与える悪影響は、当然前者の方が大きく。
その影響もあってか。
東京時間金曜日の午前中にJPMorganが緊急の電話会議を行う、と発表され。
Washington Mutualが買収されるのか、という安堵感も一瞬出たが。
ふたを開けてみれば。
単純なJPMによる買収ではなく。
一度FDICが破綻処理をした上での、JPMへの売却が行われることとなった。
つまり、WaMuは完全に破綻。
FDIC、連邦預金保険公社も、金融危機前からたった5兆円程度の資金しかなかったのに。
このところの地銀の破綻の連続で、4.5兆円ほどの資金しかなく。
今回の破綻処理は、WaMuの債券と株式を保有する投資家が、その費用を負担することとなった。
WaMuの株式を保有していた投資家の中には、著名なPEファンドのTPGも含まれていて。
彼らは15億ドルを失った、と報道されていた。
前日まで、WaMuの銀行レベルのシニア債は、45円程度で取引されていたのに。
破綻後は、5円程度に。
持ち株会社レベルの債券はほぼ無価値。
Lehmanは投資適格の格付けから、Jump to Default。
WaMuも、一応格下げはあったが、投資適格から破綻まではかなり短時間で。
ほぼJump to Defaultと言ってもいいかもしれない。
Jump to Defaultというのは、恐ろしいことで。
というのも、破綻したこと自体恐ろしいのだが。
ゆっくりと信用力を失っていって破綻するならまだしも。
投資適格だったのに突然死する、ということなら、その格付けは何だったんだ、ということになり。
端的に言うと、外部格付けなんか信じられない、ということになる。
これまではStructured Credit商品の格付け手法には問題があった、という議論だったが。
Corporate格付けも、信用できないということになり。
だって、Jump to Defaultされたら、格付けには何の意味もないじゃん。
Basel IIの根幹をなす部分が、否定されることとなる。
Basel IIでコミットメントラインのリスクウェイトが上昇したことも、今回の金融危機の遠因となっている気が強くしているのだが。
銀行が、資本コスト対比での収益率が悪くなった短期運転資金の調達に用いられるコミットメントラインを絞ったが故に、短期市場での資金調達を余儀なくされる企業が増えて。
資金繰りの不安定化、短期市場の機能低下を招いた気がする。
さらに。
シンセティックCDOなどで想定されている格付推移行列とかは、全く意味を持たなくなり。
投資適格企業のポートフォリオから作った、劣後比率が厚いシンセティックCDOだから安心、などと言っていられなくなる。
また、売りが売りを呼ぶ展開になる可能性、大。
そして、Lehmanから始まったJump to Defaultの恐怖は。
誰も信じられない、どのカウンターパーティも信じられない、という究極の信用収縮を発生させる。
どれだけシステムに資金注入を行っても、余裕資金を融通しようというモチベーションは全く働かず。
香港の東亜銀行、ベルギーの大手銀行Fortis、そしてWaMuで預金流出と取り付け騒ぎが発生。
先進国で同時多発的に取り付け騒ぎになるなんて、大恐慌以来、のはず。
特にたちの悪いのが大陸欧州。
アメリカの銀行であれば、何らかのことが起こればFEDが緊急手段として資金や資本を注入、ということは考えられるが。
大陸欧州の銀行だと、ECBしかそれができないことになっていて。
たとえばベルギーの銀行を救うために、ECBが資本注入するとなると。
ベルギーの銀行を助けるのに、スペインやドイツなどECBに加盟している別の国の金を入れなければならないということに。
ドイツでは、KFWがIKBを救ったりしたが。
より大規模で、一国の政府系金融機関が救済することができないような多国展開する欧州の金融機関に何らかのことがあったら、セーフティネットって本当にワークするのか、相当疑問。
アメリカ一国の話でも、あれだけ紛糾しているのに。
各国の利害が対立する可能性のある欧州では、短時間での意志決定がきわめて難しいはずで。
欧州での金融危機の発生は、グローバルメルトダウンにつながる可能性が高い。
タイミングも最悪。
金融機関の期末、9月末が近づいていて。
期末前に資本が痛んだ金融機関、相当あったはず。
投資銀行は8月末が四半期決算期末に当たったが。
商業銀行系、Citiなどは、9月末決算に相当影響が出ているはず。
大統領選まであと5週間で。
有権者の意向に反する政策、すなわち「難しい判断」をとるモチベーションは、政治家にはなく。
だれもリーダーシップを発揮し得ない状況。
というような、1週間でした。
こんな動きの激しい週は、当然初めて。
以前指摘した、「空売り規制は超劇薬」 の懸念が、まさに現実のものに。
株安ではつぶれないが、資金繰り悪化したらどうなるか。
どっちが大事かは、自明なのにね。