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風力発電用の風車(風力タービン)により、コウモリが犠牲になっている可能性がある。風車に直接触れていない例でも、潜水病のような症状を起こして死亡しているという。そして、その原因は気圧の急激な低下にあるのではないかとする新しい研究が発表された。
コウモリは風車になぜか引き寄せられていく。その理由は科学者の間でもはっきりしていない。一般的に、風力発電用の風車の高さは90メートルで、長さ60メートルのブレード(羽根)を備えている場合が多い。哺乳類としての好奇心が悲劇を招くのだろうか。風車に近づいたコウモリは、ブレードにはじき飛ばされて命を落とすこともあるという。ブレードの先端部は時速約260キロという高速で回転しているからだ。
しかし、カナダのアルバータ州にあるカルガリー大学のエリン・ベアウォルド氏らの報告によると、アルバータ州の風車周辺で発見されたコウモリの死骸のうち、回転部にぶつかった形跡のあるものは約半数にすぎなかったという。そして驚くことに、死骸の90パーセントには内出血の跡が認められ、回転部付近の気圧の低下が、コウモリの肺に致命的なダメージを与えていることが判明したのだ。これは人間でいえば減圧病の症状によく似ている。減圧病は潜水病とも呼ばれ、ダイバーや飛行機の乗客にみられることがある。
「タービンのブレードが回転するときには、飛行機の翼と同じような揚力が生じる。その結果、翼の近くに直径1メートルほどの気圧の低い領域ができる。この領域にコウモリが入るとコウモリの肺は膨張し、肺外縁部の毛細血管が破裂する」と前出のベアウォルド氏は説明する。その後、コウモリの肺は体液で満たされ、まるでおぼれたような状態になってしまう。
コウモリには、自然界にはない急激な気圧の変化に対抗するすべが備わっていないのだ。風車の犠牲となるコウモリのほとんどは、渡り行動を行う種だという。風車の回転部の犠牲者には、コウモリのほかに鳥類もいるが、鳥類には頑丈な管状の肺があり、気圧の変化にも強いとみられている。
「コウモリの肺が受けるダメージをこれほど大規模に調査した研究は初めてだ」と、国際コウモリ保護団体(BCI)の生物学者エド・アーネット氏は語る。同氏はこの研究には参加していないが「非常に興味深い結果が得られた」と評価している。「ただし、結局のところ問題になるのは、コウモリの死因というより、コウモリが最初に風車に引き寄せられる理由だろう」。
アメリカのワシントンD.C.にあるアメリカ風力発電協会のローリー・ジョジエウィッツ氏は、「風車の設置場所に問題があるのかもしれない。コウモリは国中のすべての風力発電施設で死んでいるわけではなく、場所によって大きな違いがある。風力発電所を建設する前に、リスクの高い場所を特定できるようにしたい」と話す。
またBCIの創設者であるマーリン・タトル氏は「風車による気圧の低下は通常運転時に発生し、死亡例の多くは最低速度で風車を回しているときに起きている。最低速度ではあまり電力も発生しないので、風車が回り始める最低速度を変えれば問題は解決するかもしれない」という見解を述べている。
アーネット氏、ベアウォルド氏らは現在、回転部の回転開始速度を上げることで、渡り行動がピークに達する時期などにコウモリを救えるのではないかと研究を進めている。
Photograph by Robert Postma/Getty