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スローに暮らす
ゆったりとした心豊かな暮らしぶりを意味する「スローライフ」。入社5年目、これまで「スロー」なんて感じたこともない私にとって、スローライフは「ゆとりあるおじいちゃん、おばあちゃんの老後の暮らし」のイメージだ。社会人としてキャリアも浅い20代にとっては縁遠い話かとも思っていた。ところが、同年代なのにひと足もふた足も早く、自分なりの生活のゆとりをまじめに考える生き方を選んだ若者がいた。仕事を頑張りながらも「あくせく働くだけが能じゃない。自分のライフスタイルを貫こう」と、スローを実践する20代に会った。 柏崎支局 鶴巻新也(27) 自然に触れ心安らぐ 貫けマイライフスタイル 「1日の最後を夕日が沈む海岸で迎えるって最高でしょ」 夕日で赤く染まる柏崎市西港町の海岸。友人や愛犬と一緒にスケートボードを楽しむ美容師芝井良友さん(27)=同市穂波町=は、すがすがしい笑顔で私に語りかけた。昨年暮れ、「スローライフ」にあこがれ、8年間過ごした東京から故郷に戻った。 柏崎商業高(現柏崎総合高)を卒業し、東京の専門学校に進学。美容師免許を取得し、原宿、池袋の有名店で働いた。ミュージシャンやモデルのヘアスタイリストのアシスタントも務め、技術を磨いた。故郷に帰る直前の美容室では、部下5人を持つまでになった。 だが、朝から深夜まで働き詰め。休日はないに等しかった。食生活が乱れ、体重が10キロ以上減り、洗濯する時間もないほどのハードワークに、心も体も疲れていた。東京の雑踏を離れ、少ない休日にサーフィンをしたり、飼い始めた犬と公園を散歩したりするようになった。 忙しい東京暮らしで、初めて感じたのんびりした時間。「自然に触れて心の底から安らぎを感じた。がむしゃらにやってたときは感じたことはなかった」と芝井さんは振り返る。 将来のことを考えたとき「これから暮らしていくのは東京なのか」と疑問が浮かんだ。「自然がある場所で人生を生きていきたい」。そんな思いが膨らんだ。柏崎に帰っても美容師として仕事ができるか不安はあったが、東京を離れる決心をした。 現在は、個人営業の美容師にスペースを提供する同市内の美容室を利用して、完全予約制の個人美容室を開いている。自分で日程を組めるため、客の好みや生活を聞きながら、東京時代の倍の時間をかけて髪型をつくるようになった。仕事の合間にはスケボーやサーフィンを楽しむ。雨が降れば本を読み、絵を描く。 私は社会人になりたての20代のうちは、仕事第一に生活せざるを得ないと思っていた。生活にゆとりを求めたい気持ちはあるが、現実はそんな時間の余裕はない。 「東京のときは、金を持っているとか、いい車に乗っているとか、他人から見た評価ばかり気になっていたけど、今は自分がいかに満たされるかを大切にしている」。芝井さんは充実した表情で語った。 ■息苦しい東京 加茂市の市街地から約10キロ離れた山あいにある下高柳集落。水道管が老朽化して水が出ない自宅で、飲み水は近所の井戸水、風呂はコミュニティーセンターを利用する。長岡造形大研究員星野新治さん(28)は一昨年、同集落の中古住宅に移り住んだ。 同大卒で、在学時に風景デザインの研究をしていたことから、農村に興味を持った。卒業して最初に就職したデザイン事務所の仕事で訪れた下高柳を気に入り、引っ越すことを決めた。 研究員の仕事は泊まり込みもあり、個人的にデザインの仕事を受けることもあって生活は忙しい。だが家に帰れば一転、満天の星空を眺め、飛び交うホタルに心安らぐ。時間がゆっくり流れ、ゆったりとした空間にほっとする。「20代はキャリアアップも必要。仕事のときはファスト、家ではスロー。生活の一部でもスローな部分を持てることに満足している」という。 東京に生まれ育ちながら、自然を求めて地方に住むことを選ぶ人もいる。上越市富岡の松川菜々子さん(25)はNPO法人「かみえちご山里ファン倶楽部」の一員として、同市中ノ俣にある環境教育施設「同市地球環境学校」に勤務している。 西東京市出身。自然にあこがれ、21歳のとき東京を出て北海道斜里町の知床自然センターで解説員として働き、2003年4月、子どもたちに自然環境について教えたいと、同市に来た。 故郷の東京との違いを松川さんは「地域の人が声掛けてくれたり、新潟は人と人のつながりが濃い」と話す。故郷は「隣は何をする人ぞ」状態。2カ月に一度、東京へ帰ると、「空が狭くて息苦しい」と感じる。 故郷を離れて4年。「自然に囲まれ、人と触れ合うことで生きている実感を感じられる。暮らしを楽しみ、『良く生きる』ことができる」と上越の魅力を語る。 ■無い物ねだり 本県は若者の多くが進学や就職で首都圏など都会へ出る。私も大都会にあこがれ、東京の大学に進学したクチだ。田舎に背を向ける人をどう思うか、松川さんに聞いた。 「新潟の人が田舎にないものを求めるように、私は都会にないものを求めた。みんな無い物ねだりなところがある」と話し、「出てから田舎のよさを知る人もいると思う」とも言う。 20代の誰もが3人のように生きられるとは限らないだろう。プライベートを犠牲にしてでも、仕事に没頭する人もいる。 星野さんは「都会に住んでも、田舎に住んでもどちらでもいいと思う。ただ、自分のライフスタイルを持っていない人生は味気ない」と話した。3人のように「マイライフスタイル」を貫くことが、心豊かな生き方に通じるのかもしれない。
2006/07/05|COMMENT(8)
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