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世迷言

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☆★☆★2008年09月27日付

 小泉元首相が引退を表明した。一国の宰相を経験し、ワンフレーズポリティクス(一行政治)も実践してみせた。反対を一掃して郵政民営化も実現した。もう議席に綿々としがみつく必要などないという小泉流美学だろう▼自民党の主機関である派閥力学が金属疲労を起こし、補助機関だけで辛うじて推進力を保つようになったおかげで誕生したのが小泉内閣であり、独航船ゆえの身軽さをもって、船団の間をかいくぐることができた。いわば何カ統の漁船漁業システムというものを「ぶっ壊し」一艘旋網で漁場を駆け抜けた▼失うものが何もないというのは強い。無手勝流で自民党をかき回し、刃向かってくるものは容赦なく斬り捨てた。その直截的で分かりやすい行動パターンが国民にも受け、任期も全うし、支持率も下げることがなかった。実に痛快な政治家である▼しかし構造改革が後継の安倍さんにきちんと受け継がれず、福田さんに至って一層薄められた結果、小泉さんの狙いは焦点がぼけてしまい、結果、構造改革=格差の拡大という一面だけが喧伝されている▼だが、景気浮揚のため何度も財政出動しながら捗々しい結果が生まれず、そのために赤字国債が膨れあがった責任を前任者は誰も取っていない。小さな政府、緊縮財政、規制緩和などの小泉流はその反省から生まれたものだが、その路線はもう否定されたに等しい。「帰りなんいざ」そんな心境だろう。総理経験者は辞任と同時に議席を失う。そういう前例にならないか。

☆★☆★2008年09月26日付

 業界最古の歴史と伝統を持つ製糖の老舗「自民甘味本舗」の跡目相続に注目が集まるのも、当主が相次いで二代立て続けに店を放り出して隠居するという椿事が続いた後だからだが、さて新当主の力量のほどは?▼同本舗は世襲ではない。三井、三菱のひそみにならい、番頭の中から優秀な者を選んで継がせることが繁栄につながるというしきたりが受け継がれてきた。今から何代か前の当主、茂二郎の孫にあたる太郎兵衛に後継の白羽の矢が立ったのは、だから創業者一族への「大政奉還」などではなく、あくまで本人の実力だった▼さしもの老舗もゴタゴタ続きで屋台骨が揺らぎ始め、このままだとライバルの「民主糖堂」に業界第一の看板を明け渡すことになりかねない。他の番頭たちと一緒にのれんを守ってきた太郎兵衛の危機感が人一倍強いのは、やはり血のなせるわざなのかもしれない▼しかし民主糖堂の当主・一郎太は丁稚小僧からたたき上げ、何度も店を潰しながらも最後には今日の身代を築き上げた人物だけに、これは一筋縄でいくまい。それだけに太郎兵衛は戦慄を覚えつ、しかしこの看板だけは絶対死守せねばと心に誓うのだった▼製糖史をひもとくと業界の序列が変わったことは三度ほどあるが、ほぼ一貫して王座を守ってきたのが太郎兵衛の店だった。しかしその輝かしい伝統もいまや風前のともしび。来月にも予定されている御前試合でその雌雄が決すが、さてどちらが勝つか、街スズメたちはその話で持ちきりだ。

☆★☆★2008年09月25日付

 米国初の金融危機によって、株を上げたのが日本。といっても「株価」でなくて「声価」のことだが、プライムローンで満身創痍となった米国のメガバンク(巨大金融機関)を日本の銀行、証券会社が助けるという構図をはたして誰が予想した?▼米国証券二位のモルガン・スタンレーに三菱UFJフィナンシャル・グループが出資し、筆頭株主に躍り出た。まさに事実は小説より奇なり。イワシがクジラを飲み込んだのだ。持ち株が20%に達すればモルガンは傘下のグループ会社となる(産経)▼一方破綻したリーマン・ブラザーズのアジア部門を野村ホールディングスが買収すると発表した。こちらはアジアを代表する投資銀行を目指すためにリーマンのノウハウと顧客とネットワークを手に入れることが早道と考えたようである。これは救済だからM&A(企業の合併、買収)よりは体面もいい▼三菱も野村もサブプライムローンでは少なくない損をしているが、しかし米国のメガバンクが負った深傷に比べれば軽い火傷程度だろう。こうして日本の二社は労せずして(といっても三菱の場合九千億円の出資)「白馬の騎士」になれた▼かってならその逆はあり得たが、状況は劇的に変わった。バブル期の日本はニューヨークの高層ビルを買い漁り、ビッグネームを買収して経済力を誇示したが、バブルが弾けてみんな放り出した。今度は「敵失」で大逆転という構図だが、ひさしを貸して母屋をとられぬよう呉々もご注意を。

☆★☆★2008年09月24日付

 自民党の第二十三代総裁に麻生太郎氏が選ばれた。母方の祖父はワンマン宰相と言われた故吉田茂首相。父親も衆院議員だったという政界のサラブレッド。初めから将来が約束されているようなセレブだが、果たせるかな総理総裁の椅子が待ち受けていた▼福田首相が内閣改造をし、幹事長に総裁選を戦ったライバルの麻生氏を起用した時「禅譲説」が流れたのは、本来あり得ないシナリオだったからだが、それはどうやら当たらずとも遠からずのように思われる。もう後のない自民党にとって総選挙を戦える駒は麻生氏しかないからだ▼それにしても、安倍前首相、福田首相と相次いで政権を放り出し、自民党が国民や野党から非難の十字砲火を浴びて解散総選挙→民主党圧勝→政権交代という図式が浮かび上がってきた時、総裁選に本命の麻生氏だけでなく、四人も対抗馬が登場したというところに自民党のしたたかさを感じる▼というのも、民主党が小沢代表の無投票三選濃厚というその時期に、こちらは五人ですよというのは、あまりにも話が良くでき過ぎているからである。おかげで民主党の動きは陰に隠れてしまった。これが演出でなかったら、自民党の復原本能おそるべし▼しかし麻生氏有力という情勢となっても自民党の支持率は上がらず、このまま総選挙となれば大苦戦を余儀なくされるのは間違いない。そういう明白な状況下、自民党がこのまま手をこまぬいているわけがなく、これから一波乱、二波乱あると思うべきだろう。一寸どころか一ミリ先は闇だ。

☆★☆★2008年09月23日付

この歳になってこれほど化学の勉強をすることになろうとは…。メタミドホスの次は「メラミン」ときた。尿素とアンモニアから作られる有機化合物で、メラミン樹脂の原料となるらしい。それがなぜ牛乳に混ぜられるのか、ここが「化学(ばけがく)」と言われるゆえん?▼中国国内で粉ミルクを飲んだ乳児十四人が腎臓結石となり、メラミンが原因とされた。五人以上の死者を出し、患者は六千二百人以上に達したという。調査の結果、同国内二十二社の乳製品からいずれもメラミンが検出された。この問題は日本にも飛び火し、中国から輸入した牛乳を使った丸大食品は商品の自主回収を余儀なくされた▼メラミンの混入は、蛋白質の含有量を多くみせかけるための「増量剤」としてらしい。食品業界ではこの増量剤が大きな意味を持つ。原料がその分少なくて済む=儲かる―という図式があるからだ。事故米を使うのも儲けを「増量」したいがためだろう▼農水省の公表で、事故米の流通がなんとも広範なことに驚かされたが、確かに「知らずに買わされていた」業者もあったにせよ、安いからには「訳あり」と承知で買っていた業者も少なからずあったはずである。これを「故買」という。しかし「安物買いの銭失い」結果は高くつく▼目の前の利益に幻惑されず「確かな」ものを買う方が結局は得になるという教訓がこれほど連続して示された時代は記憶にない。欲を出してババをつかまされた関係者はホゾをかんでいるだろう。

☆★☆★2008年09月21日付

 事故米の不正転売が次々と明るみに出て、日本の商道徳がここまで“汚染”されていたのかと驚くと同時に悲しくなった。勤勉で正直なところが日本人の「売り」なはずだったが、いつ頃からこんなにも情けない国民に成り下がったのか▼「士農工商」という呼び方は決して序列ではなく、単なる職業の分類法であり、武士以外には上下関係などなかったようだが、水戸黄門のドラマでは農民も職人も悪さはせず、役人に取り入って不正を働くのは商人と決まっているから、もしかしたらこれは倫理観の厚い順?▼しかし実際のところ「商い」は「飽きない」から出発し、そのためには践み行うべき筋道というものがあって、それが家訓としてきちんと守られたればこそ何百年と続く老舗がある。その数において日本に比肩できる国はないというのは、まさにその商法に由来しよう▼なにせ、百年以上続く老舗が日本には十万社もある。二百年以上となると、世界全体で五千五百八十六社に絞られるが、そのうちなんと日本が三千百四十六社を占める。二位のドイツは八百七十七社、フランス二百社、中国にいたってはわずか九社に過ぎない▼モラルの問題だけで論じることもできまいが、やはり根幹は信用を重んじる伝統だろう。ギネスブックにも載る「金剛組」は千四百三十年前の創業という、その事実だけをみても日本では「のれん」をいかに大切に守ってきたかがうかがわれる。と、嘆いても「のれんに腕押し」か。

☆★☆★2008年09月20日付

 多くのドライバー、とりわけ中高年や女性が渇望しているのにメーカーはなぜ開発しないのかと思っていた「安心ナビ装置」がいよいよ実用化される。遅きに失した観はあるが、縦列駐車や車庫入れで悩んだことがウソになる時代が来る▼ドライバーの死角を低減する予防安全技術「マルチビューカメラシステム」を開発し、十月発売予定の新型ミニバン「オデッセイ」に搭載すると発表したのがホンダ。直訳すれば「多角眺望写真機装置」(苦しい)だから、要するに車の死角にレンズを何本もつけたということ▼このカメラは広角よりさらに広角の「魚眼レンズ」を採用したのがミソで、複数の映像を電子的に処理し運転席正面のナビゲーション画面に表示する。これによって「駐車」「視界」「幅寄せ」という、ドライバー大方が苦手とする運転操作がかなり楽になる▼前記のように注意力と勘を要求される運転は小生のはなはだ苦痛とするところで、駐車場ではいつも気をつかう。だからこのようなニーズがあるのにメーカーはなぜ要望に応えないのかと疑問に思っていたが、ようやくにしてホンダが気付いたというのは、この業界に案外空気の読める人間がいなかったから?▼このシステムについては以前にも書いたので重複するが、しかしなんど書いてもこれはユーザーの目線に立った工夫としてたたえたい。このシステムの普及によって車の接触によるトラブルは激減し、事故そのものの予防にもつながることは請け合いだ。
 なお、十七日付本欄でリーマン・ブラザーズの歴史が「六十余年」とあるのは約百六十年、正確には百五十八年でした。読者の指摘に多謝。

☆★☆★2008年09月19日付

 中国製ギョーザ中毒事件で、中毒を引き起こした原因とされる有機リン系殺虫剤「メタミドホス」がどこで混入されたかを捜査している中国公安当局は、製造元の天洋食品で働いていた従業員のうち九人をクロと判定したようだ▼ギョーザの生産ラインで働いていたこの九人が殺虫剤混入にかかわった容疑濃厚とした判断の根拠は明らかにされていないが、製造元における混入以外に考えられない状況証拠から場所が特定された以上、お手のものの強権捜査で犯人を割り出すのは時間の問題だった▼しかし中国政府は当初「中国側で混入された可能性は極めて低い」とシラを切り、「人のいやがることをしない」という長いものには巻かれろ式福田首相流事大主義と、時間が経てばすぐ忘れてしまう日本人の健忘性を見越して、うやむやにしてしまう算段のようだった▼ところが、よせばいいのに天洋食品が事件後回収したギョーザを従業員の親戚や同郷者らに格安で販売したものだから、四人が中毒となりメタミドホスが検出されるにいたって天洋食品における混入は動かぬ証拠となった。そうなるとさすが中国政府も隠し通すことができなくなり、日本政府に「実は…」と打ち明けた▼どこまで気兼ねすればいいのか、日本政府がその事実を秘匿しておいたのも情けないが、なまじっか隠蔽しようとして中国産食材全般に不信感を植え付けてしまった中国政府の愚策も情けない。愚策ついでに次はトカゲの尻尾切り?

☆★☆★2008年09月18日付

 米国がくしゃみをすれば日本は風邪を引くと言われるほど、米国経済の影響をもろに受ける日本だが、米国初の金融不安はさっそく日本列島を揺るがし昨日はどこへ行ってもその話でもちきりだった▼まずは株安。膝株しか持ち合わせない当方には痛くもかゆくもないのだが、マクロ的に日本経済を考えればこれはマイナスだろう。しかし大方は平静で、それは株価の上下に一喜一憂していないからである。つまりは大部分が「非投資家」だからだろうか▼次に円高だ。輸出で今日の基盤を築いたと言っても過言ではないわが国が為替に敏感なのは当然。輸出はほとんどがドル建てだから、円高よりはドル高の方が実入りがいい。だからメディアは「これで輸出が不振になる」と騒いでいたが、ショックの大きさの割にはそれほど円高にならず、まずはさざ波程度で収まっている▼それは日米欧の中央銀行が市場介入したせいでもあるが、一ドルが七十九円を記録した時などから見たらショックは軽微も軽微。確かに株安とはなったが、金融危機に陥ると安全弁として株は下がり、それが緩衝材となってやがてゆっくり回復するというのは歴史が教える通り▼というわけで、世界が大騒ぎしている割には拍子抜けするほど世間はのんびりしている。米国政府がリーマン・ブラザーズの救済のため公的資金導入などの措置を取らなかったのも、影響度を見極めた上での判断だろう。金儲けに失敗した尻ぬぐいを税金でさせられるのではたまったものではないからだ。

☆★☆★2008年09月17日付

 負債総額六十四兆円。プライムローン問題に揺れる米国金融業界に核分裂が起こった。証券大手四位のリーマン・ブラザーズが経営破綻、こんな天文学的借金を抱えて六十余年の歴史に幕を引いたのである▼ゴールドマン・サックス、メリル・リンチ、JPモルガン……。知ろうともしないのに、米国の巨大投資銀行の名がいつの間にか脳裏に刻まれているのは、その影響力が実際世界経済に及ぼす実例をいやでも見せつけられてきたからか。「不沈戦艦」というものがあれば、まさにこれら巨大バンクのことだろう▼その不沈の一角が崩れた。もはや米国政府も支えきれなくなったという明らかな証拠である。やはり深傷を負って絶命寸前だったメリル・リンチはバンクオブアメリカが買収という形でタオルを投げ入れたが、巨大戦艦が二隻相次いで満身創痍となり戦列を離れれば「無敵艦隊」の信頼度も急降下する▼案の定、日米欧や新興国の株価が急落、ニューヨーク株は二年二カ月ぶりの安値、下落幅は米同時多発テロ以来の大きさとなった。当然ドルも安値となり、円がその分高くなった。こうした株安、ドル安の不安が高まる中で、救いとなったのはニューヨーク先物市場で原油が七か月ぶりに九十五ドル台になったことか▼米国発金融市場不安の今後が日本にどのような余波をもたらすか、経済音痴には予測がつかないが、これはコインの表裏であろう。こうなれば、円高が思わぬ効果をもたらすという一面を見守るしかない。