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ニュース追跡ネットが突然つながらない・ISPが夜逃げか、ユーザーが大混乱
常時接続によるブロードバンドユーザーは2300万世帯を超え、インターネット接続は家庭にとって必須のインフラになりつつある。そのインターネットが突然つながらなくなり、メールも見られない、せっかく作ったホームページもなくなるということになったら、生活への影響は計り知れない。そんな事件が現実に発生し、ネット上でも話題になっている。ネット接続事業者(ISP)が通知もなしにサービスを停止したのが原因らしい。事件を追った。 「数日前からメールもページもつながらない」「電話不通で連絡不能」「夜逃げ?」。9月中旬ごろからネットの掲示板に書き込みが相次いでいる。掲示板の情報を見る限りでは、こうした被害に遭っているのは「bremen.or.jp」「angel.ne.jp」「canal.ne.jp」という3つのドメイン名を管理するISPのエム・デー・シーと契約していた利用者のようだ。 この3つのドメイン名では利用者が設置したホームページも閲覧できなくなり、メールも受け取れない状況が続いているという。ネット掲示板に書き込んでいる人の中には、メールが受け取れないために仕事に支障が出ている人もいるようだ。今年分の年会費をすでに払ってしまっており警察や消費者センターに相談している人もいる。 神奈川県川崎市中原区にあるブレーメン商店街はホームページをエム・デー・シーの管理するサーバー(アドレスはhttp://www.bremen.or.jp/)で運営していたが、「昨年ぐらいから、時々接続できないときがあった。それでも連絡すればそのうち復旧していたが、ついに接続不能になり、連絡もつかない」(商店街担当者)という。ブレーメン商店街としては別の事業者と契約して、ホームページのアドレスも変更するという。 関東地区のISPを管轄する総務省関東総合通信局に問い合わせてみると「そういう苦情は何件か来ている。届けられている住所は登記上変更はないようで、そこに行ってみたが誰もいなかった」という。
記者もエム・デー・シーが入居していたビルに実際に行ってみたが郵便受けには「MDCは退去しました」との張り紙。ドアはロックされていてオフィスの内部を確認することはできなかったが、人気はなかった。 ビルのオーナーに問い合わせたところ「ビルの賃料は5カ月滞納しており、光熱費も7カ月分立て替えている。代表者とは今年に入ってから連絡が取れなくなっていて、従業員とは7月になんとか連絡が付いたが、部屋を整理しておくとのことだった。滞納したものはもう取れないし、泣き寝入りしかない」と話す。やはり夜逃げのようだ。 サーバーなどの設備については「コンピューターに詳しい人に見てもらったが、サーバーの筐体だけが残されている状態で、中身はなく、復旧できるものではないとのことだった」(ビルのオーナー)。その他ダンボールにつめられた書類などオフィスに残されたものはあくまでエム・デー・シーの所有物のため、当面は倉庫に保管し、「適切な時期に処分する」(ビルのオーナー)という。 こうなると、すでに支払った利用料金が返還されないこととともに、懸念される問題は個人情報の流出だろう。エム・デー・シーが管理していたパソコンやサーバーには多くの人のISPへの登録情報、クレジットカードの番号、メールそのものなど多くの個人情報やプライベートな文面が残されている可能性がある。エム・デー・シーがオフィスから持ち去ったと思われるサーバーの中身、つまりハードディスクをどこかに放置したり、売却したりした場合、多くの個人情報が流出するおそれがある。 エム・デー・シーのようなISPが続々出てくるようだと今後も路頭に迷うユーザーが増えるがISP業界の状況はどうなのだろうか。インターネット関連事業のコンサルティングを手がけるインテック・ネットコアの荒野高志社長は「ISP業界の経営状況はそれほど楽ではないが、ドン底というわけでもなく、相次いでこうした事態が起きることもないだろう。ただ中小や地域のプロバイダーは地元密着型でネットを知らない人にもサポートを厚くするなど、生き残りのため大手との違いを打ち出すべきだ」と話す。総務省関東総合通信局に事業者として登録があるのは6000社ほどだが、こうした苦情があるのは直近では1、2件程度だという。 ISPの監督官庁である総務省は「財務状況までを調べた上でISPの登録を受け付けているわけではない。利用者はまず解約手続きをして、これ以上料金が引き落とされないようにしてほしい。料金の返還等は難しい状況だが、それ以上のことは弁護士に相談してほしい」(総合通信基盤局消費者行政課)という。個人情報の問題については「残された書類などは不要になった段階で焼却処分するのが望ましい。ビルのオーナーには適切に処理しないと個人情報を流出させる加害者になってしまうとは伝えている。こちらで引き取ったり、焼却費用を負担するなどということはしていない」(同)という。 ISPが突然サービスを停止するのはそれほど多いケースではないが、利用者は接続の不調や障害が頻発する事業者に対しては敏感に察知し、自己防衛していくしか現状では方法はないようだ。 [2006年10月6日/IT PLUS] ● 関連記事
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