米大統領候補のテレビ討論は、いつも有権者の判断材料となり、結果を左右する要素となってきた。今年は史上まれにみるほどの接戦だ。その上、金融危機対策の法案作りが大詰めで難航し、不安が内外に広がっている。26日の第1回討論への関心は高かった。
共和党候補のジョン・マケイン上院議員と民主党候補のバラク・オバマ上院議員は、周到な準備を重ね、経済と外交で相手を批判し自分を売り込んだ。現在進行中の金融対策について基本的な考え方の違いが浮かび上がったが、2人とも説得力のある具体策をさらに展開する必要がある。
前日の25日、ホワイトハウスで政府と議会指導者が集まった金融救済法案の会議は結論が出なかった。大筋合意がいったん報じられた直後の決裂で、米政治史に残る混乱といえる。議会下院の共和党が土壇場で反対したのが原因だ。
巨額の税金を使って不良資産を買い取る合意案を否定し、民間資金の活用を逆提案した。共和党の経済保守派は、政府の民間機関救済を否定し、党綱領にも書き込んだ。政府の市場への介入を疑問視する立場からは、たとえ与党でもブッシュ政権の公的資金救済案は賛成できないのだろう。
小さい政府か大きい政府か。市場の自由競争か政府の規制か。原理原則の闘いであり、米国を二分する保守とリベラルの思想対立が、金融危機で表面化したといっていい。
オバマ氏はブッシュ政権の経済政策とは「規制と消費者保護をずたずたにすれば、繁栄につながるという理論」であり、それが失敗した、と総括し「規制は悪だという経済哲学」を批判した。政府の介入と規制強化をはっきり支持した上で、ブッシュ大統領の失政をマケイン氏が支えたと攻撃する戦略だ。
一方、マケイン氏はウォール街の「強欲と行き過ぎ」に責任を求めるにとどめ、収拾への楽観論を強調した。下院共和党の税金投入否定案への賛否を示さなかったのは、賛成すれば危機打開を妨害し、反対すれば保守派に反発されるジレンマを恐れたためだろう。市場原理か政府の介入か自分の立場を明確に示せない苦しさをうかがわせた。
1929年の大恐慌以来とされる金融危機をどういう形で解決するかは、米国流資本主義や価値観の行方も左右し、この国の基本路線となる。マネーゲームや拝金主義の暴走にどう歯止めをかけるか。国家の規制や管理をどこまで重視するか。課税や富の分配、弱者保護にどう取り組むか。日本を含めたどの国も直面する難問だ。
21世紀の資本主義の新しいモデルにふさわしい理念と政策を両候補は鮮明に打ち出してほしい。米国だけでなく世界の今後が懸かるますます重要な選挙になってきた。
毎日新聞 2008年9月28日 東京朝刊