福岡市で小学一年の男児が殺害されたいたたまれない事件があった。容疑者は母親だと分かり、ショックは増幅した。恐らくは最も愛する存在だったであろう母親に裏切られた男児の気持ちを考えると、陰うつになるばかりだ。
本紙によると、母親は思うように体が動かない持病に苦しんでいたようだ。公園の公衆トイレで介助を頼んだが断られ、絶望的になったことが犯行の動機になったという。普段から育児への悩みがあったともいう。
それにしてもこの事件は分からないことが多すぎる。
母親の体調はどの程度悪かったのか、心身両面で医療機関を受診しなかったのだろうか。男児には軽度の発達障害があったという。母親がそのことに悩むことは想像に難くないが、なぜ、わが子を殺害するほどまでに追い込まれたのか。
周囲は母親の異変やSOSに気づかなかったのだろうか。そして何よりも、この家族の中で父親はどんな存在だったのだろう。
容疑者の判明後、報道は一気に縮小した感があり、こうした疑問が解消されないまま、事件はいずれ世間から忘れられるのだろう。
しかし、この事件は子育てに悩む親を孤立させないための家族の役割、学校や地域との連携の在り方など、多くの教訓を残した。どこでも起こり得る普遍性のあるものだけに、再発防止のために、私たちがそれぞれの立場で何ができるかを考えてみることは、決してむだにはならないだろう。
(備前支局・二羽俊次)