以前、車中でたばこを吸って取材先の学校の校門をくぐり、生徒に見られて気まずい思いをしたことがある。たばこの害を知れば知るほど、子どもの前ではなおさら、吸いたいと思わなくなった。
子どもの喫煙防止教育を徹底しようと、県教委は02年度から全国に先駆けて公立学校を敷地内禁煙とした。04年、県教委はパンフレット「やっぱり、やめてよかった。たばこ。」を作成した。
「やめてくれよ。まるで平成の御触書(おふれがき)じゃないか。そう思った。しかしもう一方で、この機会に百一回目の禁煙に挑戦してみようかとも思った」「意志が弱くてなかなかやめられなかった私にとっては、やめなければならない根拠ときっかけをいただいた」
敷地内禁煙を契機にたばこを吸わなくなった教職員13人の体験談をまとめ、小中学校に配布。県教委のホームページでダウンロードできるようにしたところ、県外の教師や医師らから「禁煙教育に使いたい」という依頼が寄せられた。
県が05年11月に実施した栄養調査では、喫煙者のうち「たばこをやめたい」と思っている割合が男性で3割、女性で5割。敷地内禁煙は「やめたい」と思っている教職員の背中を押したようだ。
県立和歌山工業高校インテリア科の教諭、広瀬哲也さん(37)は06年1月17日、職員室で「今日から禁煙します」と宣言。その日は非常に眠く、頭上から声が出ているような気がした。翌日、医院を受診し、ニコチンパッチを2カ月間張って禁煙した。「10年前は職員室の机の上に灰皿があったが、電車や駅のホーム、飛行機が禁煙なって、ついに学校まで禁煙の波が来た。吸い始めたころからやめようと思っていたからやめてみた」という。
私もこの企画をきっかけに禁煙して5カ月。「自分が禁煙したからって、手のひらを返したみたいに愛煙家にきつく当たりたくない」という広瀬さんの言葉に考えさせられた。「喫煙経験者の立場で禁煙を考える」という初心に帰ろうと思う。【加藤明子】
毎日新聞 2008年9月27日 地方版