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【社説】

政治家の世襲 小泉さん、あなたもか

2008年9月27日

 小泉純一郎元首相が今期限りで政界を引退する。評価の分かれる「改革の光と影」を残して。勘所と潔さはさすがだが、跡を継ぐのが子息となるとどうか。世襲だなんて、小泉さん「らしく」ない。

 小泉氏が次の総選挙に出ない、とのニュースは政界を驚かせた。ただ当人にとっては至極当然の決断であったろう。

 二〇〇三年の総選挙直前、小泉氏は中曽根、宮沢両元首相に引退勧告した。その際、父の純也・元防衛庁長官が亡くなった年齢にちなんで「六十五歳勇退」検討をメディアに公言していた。

 現在六十六歳。「筋を通す」美学にこだわる小泉氏らしい出処進退の判断だった。本来、功成り名を遂げた首相経験者は後進に道を譲って議員を退くのが望ましい。第一線に執着する人たちに、小泉氏はその範を示した。

 首相在任中は世論の支持を受け郵政民営化や経済の構造改革を推進した。だが副作用も小さくなかった。自民党は総裁選で、改革路線にこだわらない麻生太郎氏を大勝させた。総選挙向けのポスターから「改革」の文字は消えた。「小泉時代」は事実上終わっている。

 小泉氏は地盤の衆院神奈川11区の後継に次男を指名した。小泉家は祖父から続く政治家一家だ。後継の次男は“四世”となる。

 「自民党をぶっ壊す」と宣言し確かに派閥も古い支持基盤も崩壊した。が、党をむしばみ、政治を劣化させたとも指摘される世襲議員の問題は手つかずだった。「地盤、看板、カバン」の相続は政治家を家業とするに等しい。その分、政治に意欲ある人物の国会への道が閉ざされ、指導者にふさわしい人材が枯渇する。安倍晋三、福田康夫両氏の政権投げ出しは世襲政治の弊害の典型例でもある。

 発足直後の麻生内閣の支持率はメディア各社の世論調査で50%前後。総選挙へ弾みを狙った与党は肩透かしを食った。首相を含む内閣のメンバー十八人中十一人が世襲議員。うち首相経験者の子や孫が四人も並ぶ。国民と懸け離れた「世襲内閣」と、期待外れの支持率とは無縁でなかろう。

 世襲は自民以外にも広がっている。規制すれば、憲法の「職業選択の自由」に抵触するとの主張もあるが、各党が真剣に考えるべき課題だ。民主党がまとめた政治家の資金管理団体の引き継ぎ禁止も一案である。もちろん最大の規制策は世襲を安易に許さない風土を有権者が築くことだろう。

 

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