改革路線の象徴だった自民党の小泉純一郎元首相が次期総選挙に出馬せず、政界を引退する意向を表明した。政権を5年5カ月維持し、旧来の財政依存型の景気対策を封印し、不良債権処理を着実に進めて日本経済の再生を図った功績は大きい。
半面、「地方の疲弊や格差拡大を招いた」との批判も強まったため、自民党総裁選で圧勝した麻生太郎首相は景気対策最優先を掲げて小泉路線の転換を図ろうとしている。郵政民営化など改革の旗を高く掲げて世論の支持を引き付けた「小泉劇場」は名実ともに幕切れを迎えた。
小泉氏の政治手法は型破りだった。自民党内の既得権擁護派を「抵抗勢力」と呼び、対決機運を盛り上げて世論の支持を動員し、多くの改革を実現させた。公共事業の削減が進み、道路公団など大半の特殊法人が姿を消して独立行政法人や民間会社などに移行した。
長年の持論である郵政民営化法が与党内の造反で参院で否決されると、間髪を入れずに衆院を解散して圧勝に持ち込んだ手法は小泉政治のハイライトだった。日本経済の足を引っ張り続けてきた不良債権問題を竹中平蔵氏とのコンビで処理して金融を正常化し、デフレからの脱却につなげたことも大きな実績だ。役所や企業の談合体質を改める独禁法改正も忘れてはならない改革である。
外交面ではテロとの戦いへの国際貢献や日米同盟強化でリーダーシップを発揮した。2度にわたる電撃訪朝で拉致問題を進展させたが、靖国神社参拝で日中、日韓関係を悪化させたのは大きなマイナスだった。
一連の小泉改革で自民党の伝統的な支持基盤は弱体化し、多くの派閥が衰退した。小泉氏は確かに古い自民党をぶっ壊したが、それに代わる新しい自民党の姿はまだ明確になっていない。小泉氏は選挙区の後継者に次男を指名したが、こうした4代続く世襲は小泉氏らしくない。
内外の厳しい経済情勢を踏まえ、麻生自民党は次期総選挙に向け、景気対策最優先を掲げて小泉路線からの転換に動き出した。かつてのように安易に財政出動に依存する政策は好ましくない。日本経済の構造改革を促し、経済成長につながる施策に力点を置くべきである。