麻生太郎首相が25日(日本時間26日)、ニューヨークでの国連総会で演説した。日本の首相の国連総会出席は3年ぶりのことだ。
就任したばかりの麻生首相が初仕事の場として国連本部を選んだのにはわけがある。国連では毎年この時期に加盟各国の首脳クラスが一般討論演説を行うが、日本の首相は昨年も一昨年も出席を見合わせた。安倍、福田両政権の発足と時期が重なったためだ。
「国連重視」を掲げながら3年続けての首相欠席となれば日本の国際信用にかかわる。麻生首相もそう思ったのだろう。国会での所信表明演説の前に国連で演説するのは異例だが、強行日程をおして国連総会を優先したことは是としたい。
演説で麻生首相は、世界経済の安定に向け日本は経済を成長させることによって貢献していきたいとの考えを表明した。麻生カラーを出した部分だ。
テロ対策への協力では、アフガニスタン復興支援の一環としてインド洋での給油活動を行ってきたことを説明し、「今後とも国際社会と一体となりテロとの闘いに積極参画していく」と述べた。
給油活動継続への決意を示したものと受け取れる。早期に予想される衆院解散・総選挙の結果次第で給油継続が不可能になる可能性があるが、そうなっても首相が表明したテロ対策への「積極参画」は国際公約として残る。その重要性を十分に認識して対応していく必要がある。
首相発言の重みに関し、ひとこと言っておきたい。麻生首相は演説後、集団的自衛権の行使を禁じた憲法解釈について「基本的に変えるべきものだ」と述べた。記者団に質問されたから持論を述べただけ、と思っているのかもしれないが、それほど軽々しく扱うべき話ではないだろう。
この問題では安倍晋三元首相が発足させた政府の有識者会議が憲法解釈の変更を求める報告書を出したが、福田康夫前首相が棚上げにした経緯がある。浜田靖一防衛相も「腰を落ち着けてゆっくり話した方がいい」と言っている。国の安全保障政策の根幹にかかわる問題は冷静な環境のもとで議論されるべきである。
近隣外交について麻生首相は演説で、中国と韓国を重要なパートナーと位置づけ「関係強化に努める」と述べた。首脳往来が復活するなど軌道に乗り出した対中韓関係を大事にしてもらいたい。
首相が外相時代に新機軸として打ち出した「自由と繁栄の弧」構想には、特に中国が「対中包囲網だ」と警戒心を抱いている。演説ではこの構想には触れなかったが、基本的価値を共有する諸国との連帯を重視し、価値観外交を進める考えを表明した。この点については国際社会に誤解を与えないよう、ていねいな説明が必要になる。
毎日新聞 2008年9月27日 東京朝刊