◎世界遺産運動 地域の財産もっと磨きたい
世界遺産の新たな候補として五件の暫定リスト掲載が決まり、石川、富山県の四件は見
送られた。残念ではあるが、世界遺産の道はそれだけ険しく、息の長い取り組みが求められるということだろう。関係自治体は仕切り直しを迫られようが、六年後の北陸新幹線開業を考えれば、世界遺産運動で広がった歴史遺産や町並みに磨きをかける取り組みの手綱を緩めるわけにはいかない。気落ちすることなく、地域の魅力を高める努力をさらに続けたい。
文化庁の特別委員会の審議では「城下町金沢」は「主題に関する調査研究を行い、一定
の方向性が見えた段階で準備を進める」というグループに入った。今後の状況次第で暫定リスト入りを検討するという。資産構成が高く評価される一方、他地域の同種の提案との組み合わせを探る選択肢も示された。「城下町」というテーマは暫定リストの中にはみられず、その独自性には可能性が見いだせる。城下町の価値をさらに多方面から追究していく必要があろう。
「霊峰白山」「近世高岡」「立山・黒部」はいずれも「主題の再整理、構成資産の組み
換え、比較研究等を要する」というグループになった。世界遺産を目指すとしても内容の大幅な見直しを迫られる。
「平泉」が初めて「記載延期」になるなど世界遺産の審査は年々厳格化している。文化
庁も認める通り、国内でどれほど評価されても、それとは違った基準があり、ユネスコの物差しにいかに合わせるかという技術論の側面が強まっている。今回の結果は「登録しやすさ」という戦略的な視点に沿ったものなのだろう。
石川の二件について特別委からは文化財保護が十分でないものは指定・選定を行うよう
注文がついた。この指摘は真摯に受け止める必要がある。世界遺産運動とともに一斉に調査が始まったが、裏を返せば、それは身近に貴重な財産がありながら、その価値に気付いていなかったことを示しているからである。
世界遺産登録をめぐる今後の道筋は見えにくい部分もあるが、運動を通じて高まった熱
意や意欲を失うことなく、地域の魅力づくりに取り組んでいきたい。
◎新型インフル対策 迎え撃つ態勢急がねば
新型インフルエンザ対策の基本方針が厚生労働省の専門家会議で了承された。「感染拡
大を最小限にとどめること」と「社会・経済を破たんさせないこと」の二つに目的を絞り、警戒水準を四段階に分け、段階ごとに有効な手を打つとしている。
第一段階はウイルスを国内に入れないようにすること、第二段階は国内へ入ってきても
最小限に抑え込むこと、第三段階は感染の拡大を食い止めながら感染者の健康被害を速やかに回復させること、第四段階は影響を受けた社会的な機能の迅速な回復―等々が骨格である。
この方針に沿って国の現在の行動計画やガイドライン(指針)が見直され、地方自治体
も連動して対応を手直しすることになるのだが、予防の決め手ともいえる感染を想定した訓練となると、国も地方も今からだ。人間は出来事が大きいほど、その前触れに鈍感といわれるが、新型インフルエンザについて、専門家は近いうちに必ず発生するとみている。規模が大きくならない前に抑え込む態勢の強化を急がねばなるまい。
石川、富山両県でも対策本部があり、発生と同時に知事が本部長となって指揮すること
になっている。が、感染を想定した訓練となると、石川県では感染症指定医療機関などごく限られた範囲の関係者による患者の搬送訓練が行われただけで、広範な関係者を対象とした訓練はこれからだ。富山県では感染を想定したシミュレーションが行われたが、本番を想定した大規模な訓練はやはりこれからだ。一般の医療機関などの対応策はさらに遅れている。
新型インフルエンザに対しては、ほとんどの人が免疫を持たないため、国内でそのパン
デミック(大流行)が起きると、国民の25%が感染し、入院患者は一日最大十万人に上り、死亡者も十七万―六十四万人と予想され、場合によっては医療機関が対応できなくなることも起き得る。社会生活や経済活動に与える打撃は計り知れないのである。それゆえにテロ以上の危機管理が求められているとの認識を持たねばなるまい。