力強さとしなやかさを兼ね備えた躍動感あふれるプレー。見る者を魅了する「テニスの王子様」錦織圭選手(18)がツアー初優勝に続き、四大大会の全米オープンで日本男子として七十一年ぶりのベスト16入りを果たしました。
歴史的勝利を挙げると、コートから真っ先に駆け寄ったのは両親と日本テニス協会の盛田正明会長の元。「世界に通用する日本選手を育てたい」。かつて取材で熱く語っていた盛田会長の夢が実を結んだ瞬間でもありました。
盛田会長はソニーを創業した昭夫氏の実弟で二〇〇〇年、私財を投じて有望ジュニアのための「盛田正明テニス・ファンド」を設立。その奨学金で錦織選手は十三歳で渡米、五年間留学しプロに欠かせない強靱(きょうじん)な精神力と基礎体力を築きました。
思い起こせば、ちょうど五年前の九月。錦織選手と一緒に海を渡ったのが当時、岡山大付属中三年の富田玄輝選手でした。留学先はシャラポワ、サンプラスら数々のトップスターを生んだニック・ボロテリー・テニスアカデミー。この名門スクールで二人は厳しいトレーニングに耐えながら、世界各地のツアーを転戦しました。
「圭くんはいつもマイペースで大舞台も楽しんでしまう性格。でも努力なら負けないよ」と二年間留学した富田選手。現在、慶応大でテニスに打ち込んでいます。
これまで盛田ファンドの恩恵に浴したジュニアは十三人。「テニスの足長おじさん」のスケール大きな支援は、世界に羽ばたくスターだけでなく、心も体もたくましい若者を育てていると感じます。
(運動部・飯田陽久)