米原子力空母ジョージ・ワシントンが、新たな母港となる神奈川県横須賀市の米海軍横須賀基地に入港した。一九七三年に配備されたミッドウェー以来、原子力空母が米本土以外に配備されるのは初めてである。
国防総省の報道官は「日本と周辺海域を守るために米国が果たす責務を象徴している」と、日米安全保障条約に基づく配備の意義を強調した。しかし、日本へ航行中の五月に南米沖で乗組員の喫煙などが原因による火災が発生、八月には日本に寄港した米原子力潜水艦の放射能漏れ事故も発覚した。国民の安全への不安が高まる中での入港であることを、米軍は肝に銘じておくべきだ。
原子力空母は、燃料補給なしで移動できる機動力が最大の特徴だ。横須賀を母港とした通常型空母キティホークはイラク戦争などに派遣されたが、燃料補給がネックとなり活動は制約された。通常型空母は老朽化で来年までにすべて退役し原子力空母に交代する。攻撃力が強大なだけに周辺諸国との緊張が高まる恐れがあろう。
日本に空母を配備する計画が持ち上がったのは冷戦さなかの七〇年代前半だった。当時唯一の原子力空母だったエンタープライズも検討されたが、「核」に敏感な日本の世論に配慮し断念した経緯がある。唯一の被爆国であるという事実が、原子力空母の母港化を押しとどめてきたことを忘れてはなるまい。
二〇〇五年に米政府が原子力空母配備を発表すると、日本政府は核の議論を封印し、通常型空母からの転換を受け入れた。
ジョージ・ワシントンは出力約二十万キロワットの原子炉二基を搭載している。東京湾に小規模の原発が引っ越してきたようなものだ。燃料は濃縮度90%以上の「核兵器」級ウランである。
市民団体「原子力資料情報室」は、原子力空母が横須賀で原子炉が溶融する事故を起こした場合、半径百六十五キロの住民が被害を受け、最悪で百六十万人が十年間で死亡するという被害想定を発表している。
しかし、米政府は、原子力艦船は五十年間大きな事故がないという実績を挙げ「原子力事故の可能性は極めて低く想定しがたい」と日本政府に強調するばかりだ。情報公開や立ち入り検査は「軍事機密」が壁となり拒否されている。
国は、横須賀市に放射能監視施設を新設し監視体制を強化した。トラブルがあっても、原因が究明できなければ、有効な対策は打てない。日本政府は安全性を検証できる仕組みを早急に構築しなければならない。
米国の金融危機をきっかけに始まった欧米金融大再編に、日本のメガバンクと証券最大手が参入に踏みだした。バブル経済崩壊後、国際金融市場での存在感が薄れていた国内勢だが、復権に向けて一気に動きだした。
米サブプライム住宅ローン問題の深刻化によって経営不安の増す米証券二位のモルガン・スタンレーに対し、三菱UFJフィナンシャル・グループが第三者割当増資を単独で引き受け、最大で普通株式の20%出資すると発表した。出資額は最大九千億円超になる見通しで、三菱UFJがモルガンの筆頭株主になるとみられる。邦銀による海外勢への出資では過去最大の規模で、モルガンに一人以上の取締役を派遣する。
野村ホールディングスも経営破たんした米証券大手リーマン・ブラザーズのアジア・太平洋部門だけでなく、欧州部門も買収する。リーマンの人材などを活用し、海外事業で攻勢をかけることになろう。
日本勢が事業の国際展開を加速させようとする背景には、サブプライム問題に関連する損失が比較的少なく、資金に余裕があるからだろう。損失拡大や資金調達に苦しむ欧米金融機関は、救済役として日本勢に期待する。邦銀にとっては、安い買い物であり、バブル崩壊後不良債権処理に追われ、海外事業の縮小や見直しを余儀なくされていただけに、海外事業再強化への千載一遇のチャンスと判断したとみられる。
思い切った海外展開が大きなリスクを伴うことも間違いなかろう。サブプライム問題の終息は見えない。さらに、欧米流の冷酷な金融経営とうまく調和できるのかといった懸念もある。巨額の出資に見合う利益を上げられるか、日本勢の力量が試されることになろう。
(2008年9月26日掲載)