小泉元首相の引退を報ずる26日朝刊各紙。
25日のNHKニュースによると、元総理の小泉純一郎さんが引退を表明しました。
小泉さんは今年66歳。1972年に衆院議員に初当選し、2001年4月に自民党総裁選で、大本命の橋本龍太郎さんを破り、まさかの当選。その後、「改革なくして成長なし」を絶叫し、(小沢さん率いる自由党と合併前の)旧民主党が得意としていた大都市部の無党派層に食い込みました。そして、2006年9月、今からちょうど2年前、人気がまだあるうちに、安倍元総理にバトンタッチし、退陣しました。
■「かっこいい」雰囲気かもし出し、女性や若者を魅了
小泉さんは2001年参院選と2005年のいわゆる「9.11総選挙」で、小泉旋風を巻き起こし、崩壊寸前だったように見えた自民党を一時的に立て直したように見えました。
就任当初、小泉さんは、所信表明演説で、保育所待機児童ゼロにすることを約束。さらに「米百俵」のたとえを引いて、教育を充実させるようなことをにおわしました。
参照:
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第百五十一回国会における小泉内閣総理大臣所信表明演説(首相官邸)
女性閣僚も当初は外務大臣・田中真紀子さん、環境大臣・川口順子さんら5人も起用しましたし、9.11総選挙でも、片山さつきさん、猪口邦子さんら「小泉チルドレン」の女性候補を前面に出しました。それにより、比較的リベラルな考えの女性や若者が「小泉さんかっこいい」と言い出すようになったのを記憶しています。
「族議員」が連想させるような「田舎の既得権にあぐらをかく親父」をたたくように演出しました。それが、今まで「女性がゆえ」に、「若いがゆえ」に、「才能を発揮できない」と思っていた人々の琴線に触れたのでしょう。
また「非効率な企業はつぶす代わりにセーフティネットを充実させ、効率的な産業に労働力を移動いさせる」という小泉さんの言葉を真に受けて支持した人もいるでしょう。
■実際は輸出大手やアメリカの権益拡大&庶民負担増
しかし、実際に行われた小泉さんの政治は簡単に言ってしまえば、
1.アメリカ国債の購入や、ゼロ金利の継続、さらには銀行による国内企業からの貸しはがしを奨励するなどした。これにより、アメリカにお金を流出させる。
2.それにより、貿易黒字にも関わらず、強引に円安を演出し、アメリカに日本のトヨタなどの大手企業のモノを買ってもらって儲ける。
3.トヨタやキヤノンなどの大手企業が儲けやすいよう、幹部を経済財政諮問会議・規制改革民間開放会議などで政策立案を任せた。彼らの都合のよいように労働などの規制緩和を行った。また中曽根康弘さん以来の延長線上で、サービスの「民営化」に名を借りた、実質的にはアメリカも含む大手企業への丸投げを推進した。
4.社会保障、教育など、国民へのサービス、必要な住民サービスをまかなうための地方交付税をカットした。一方で、特別会計など、中央官僚の既得権益はそのまま。
5.外交面ではアメリカへの従属を強め、アフガン戦争、イラク戦争へ派兵。自衛隊がアメリカ軍の下請けになる「米軍再編」への道筋をまとめ、岩国基地問題などの火種を残した。
に集約されると考えます。
■安倍・福田時代に矛盾が噴出
このような小泉政治は、表面上は「景気回復」を演出しました。しかし、貧困が蔓延しました。地方経済は困窮しました。
地方の教育費も小泉政権以降、低下する一方です。
参照:
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文部科学省・平成19年度地方教育費調査(平成18会計年度)−中間報告−・調査結果の概要(文部科学省)
「米百俵」どころではありませんでした。広島県内でも府中市で保育園への補助金がカットされるなど深刻な事態が進んでいます。福田前総理があわてて、保育所待機児童をゼロにするための計画をこれから作ろうとしていたところです。
さらに、小泉さんの腹心・竹中平蔵さんの金融政策により、銀行が無理やり貸しはがしを黒字の会社からも行い、潰しました。中小企業の数はいまなお、減少し続けています。
参照:
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中小企業白書(中小企業庁)
その上、所信表明演説に反して、社会保障などのセーフティネットが削減されました。その上、有期雇用や派遣労働を「同一労働同一賃金」にすることなし拡大してしまった。かくて、労働者(とくに若者)が、それこそ、ワーキングプアを余儀なくされることになったのです。
そのことが背景となり、2006年秋に小泉さんが退陣後、安倍元総理の時代に自民党への不満が爆発し、参院選で自民党は惨敗。後継の福田前総理も有効な対応ができないまま、2代連続で突然政権を放り出す結果となりました。
アメリカに依存できない今、貧困撲滅や食糧の海外依存度低減を行い、国内でお金を回すようにする仕組みの構築が焦眉の急となっています。筆者の地元選出の亀井静香さんの言葉を借りれば日本は経済的な焼け野原になったのです。
日本は所得上昇なき物価高=スタグフレーションという未曾有の危機に瀕しています。麻生さんがかろうじて政権を維持しようが、小沢さんが政権を奪おうが、上記をしなければ日本は滅亡の危機に瀕します。
■小池惨敗&日本貿易赤字転落が告げる「小泉時代」 終了
そして、今回の総裁選では、「小泉路線」のまっすぐな継承者で、「郵政刺客」も勤めた小池百合子さんを推しましたが、小池さんは、次点にも入れない惨敗でした。
もちろん、総裁選は、「麻生優勢」がわかりきって盛り上がらなかったということはあります。だが、それを差し引いても、「小泉政治は、自民党員の間でさえも、まったく支持されていない」ということを露呈したのです。「小泉純一郎」は、ついに総裁選という「準決勝」で敗れ去ったのです。
そして、追い討ちをかけるように、25日発表の2008年8月の貿易収支はついに赤字に転落しました。原因は、原油や食料などの輸入物価上昇とアメリカ景気後退による輸出不振です。
参照:
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財務省貿易統計(財務省)
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平成20年8月分貿易統計(速報)の概要(PDFファイル、財務省)
このように、アメリカ景気後退の影響をまともにかぶるのは、小泉さんによる、アメリカ依存の経済政策のつけです。輸入物価はもう少し円高だったら影響が緩和されていたかもしれないし、もっと国内で食料やエネルギー(北欧やドイツが取り組んでいます)の生産できるようにしておけば、と悔しいです。「小泉政治の破綻」が国際経済面でも現れた、その日に小泉さんが引退とは、歴史の皮肉を感じさせました。
■「小泉」からの再建策を競ってほしい総選挙
「決勝戦」たる総選挙では、小沢一郎さん率いる民主党、社民党、国民新党、新党日本、共産党などの野党が社民主義的な政策を掲げ攻勢をかけます。これを伝統的な積極財政派の麻生太郎さんがこれを迎え撃つ構図になります。
さらば!小泉純一郎!
そして、政治家の皆さん。国民の皆さん。ポスト・小泉の日本の再建のため、議論を深め、知恵を出し合いあいましょう。