退職日までの出来事
テーマ:Pプレス2008年7月1日(火)、Y課長と僕の『退職願』が正式に受理されました。
『退職願』は「7月末日付の退職を希望」ということで提出したはずなのに、実際の退職日は予想外に早く訪れました。
これから、退職日までの出来事を簡単に書きます。
7月1日の午後、Y課長と僕は早速、お世話になった取引先の方々のところへ挨拶に行きました。
ある取引先の代表者は次のようにおっしゃいました。
「大変だったねえ。Tさん(Pプレス社長)は最初に会った時から社長の器じゃないなあと思ってたよ。だから、この会社は持っても1年くらいかなあと。だけど、あなたたちが辞めるとなれば、もっと早まるかも知れないねえ。これじゃあ、ウチも不安だから、もう取引はしないよ。前金でも付き合えないね。」
また、ある大手取次の担当の方は非常に不安そうでした。
「今後の御社の出版活動は大丈夫なんでしょうか。独立して1ヶ月で営業が全員、辞めてしまうというのは異常事態ですよね。受注や納品といった最低限の対応はきちんと行なわれるのでしょうか。もし、それさえも行なわれないとなると、ウチも取引口座を開いた意味がないですから。」
ある中堅取次では次のようなやり取りがありました。
担当者:「それで後任は、どうされるんでしょうか?」
Y課長:「まだ決まってませんが、おそらく営業代行業者に頼むことになると思います。」
担当者:「営業代行? ハハハ…。御社の社長さんは出版流通のことを何もご存知ないんですね。ちょっと考えが甘いんじゃないですか。」
アニメ系の書店さんに強い、ある取次の方は以下のようにおっしゃいました。
「せっかくA出版さんの頃から3年以上もノウハウを蓄積されてこられたのに、残念です。ウチも売れる商材だから大事にしていたんですけど。売り方をちゃんと把握していらっしゃる営業さんは、そんなに簡単には見つからないでしょう。」
一方、この日、Pプレスの編集部には新入社員(女性)が入社しました。
ところが、彼女は編集なのに、なぜか「経理」を担当することになったのです。
Tいわく、「彼女は前職で事務をやっていたので、経理もできます。大丈夫です。」
(※それにしても不可解なのは現在、Pプレスがネット上で新たに「経理」を募集しているということです。彼女の手が回らなくなったのか、編集に専念することになったのか、それとも辞めてしまったのか…。)
入れ替わるように、3日(木)、経理のNさんが退職しました。
予定より20日も早い退社です。
そして、何と、Nさんから新人への引継ぎは一切、行なわれませんでした。
Tは、「新人に余計なことを吹き込まれては困る」とでも思ったのでしょうか。
さらに奇妙なことに、TはT役員(A出版元社長)に対して「Nさんの就職先を紹介してあげて下さい!」と、社内で、他の人たちに聞こえるような大きな声で、何度も頼んでいたそうです。
Nさんは「経理として、やってはいけないことをした」という理由で、辞めさせられたのではなかったのですか。
もしも本当にそうだとしたら、そんな人を他の会社に紹介するなんて、失礼な話ですよね。
Tは、さんざん批判されたから、「私はNさんのことも、ちゃんと考えてあげているのよ」というポーズを取っているだけなのが見え見えですね。
おまけに、Nさんが最後に会社を出て行く時、花束が贈呈され、社員全員で彼女のことを見送ったそうです。
他の辞めさせられた社員に対しては、なされなかった演出です。
残った社員には、よほど自分のことを「いい人」だと思わせたいのでしょう。
けれども、いくらワザとらしい芝居を打っても、この会社の労働環境が劣悪であるという事実は変えられません。
4日(金)、Y課長と僕は新宿の「労働基準監督署」に行きました。
Pプレスの現状を訴え、我々が辞めた後、残った従業員の労働条件が少しでも良くなるようにと願ってのことです。
我々が訴えたことは次の4点です。
①「残業・休日出勤手当がつかない。」
にもかかわらず、編集部員たちは月額20万円前後(税引き前)といった薄給で、月300時間以上勤務させられています。
②「就業規則がない。」
③「有給休暇がない。」
④「社長が自分の気に入らない社員に懲罰を与えたり、次々に辞めさせたりしている。」
中には「お茶を片付けなかった」という理由で顛末書を書かされ、「即日解雇」された人もいます。
しかし、ベテランの相談員さんから返ってきたのは、現実の非情さを見せ付けられるような言葉でした。
①の「残業・休日出勤手当」については、出版の場合は「裁量労働制」が認められているので、残業代を出さないからといって、直ちに違法になる訳ではない。
(※ただし、会社と労働者の間で協定を結ぶ必要がある。)
②の「就業規則」については、「従業員が10人未満」の会社では作成義務はない。
③の「有給休暇」は、会社で定めていなくとも、法律で認められているので、取得する権利はある。
④の、「お茶を片付けなかった」という理由で顛末書を書かされ、「即日解雇」されたことについて。
相談員さんは、「それは悪質ですねえ。裁判を起こせば、きっと勝てますねえ」とおっしゃいました。
でも、それには解雇された本人が、あくまで個人として会社を訴えるしかないとのことです。
つまり、労働基準監督署から会社を指導することはできないそうです。
その他の、いわゆる「パワハラ(=パワーハラスメント。権力や地位を利用した嫌がらせ)」行為についても同様です。
ただ、相談員さんは次のようにおっしゃいました。
「その社長は
【人格障害】
ですから、そんな会社はとっとと辞めて、他の仕事を探すのが懸命です。」
なるほど、「人格障害」か。
言い得て妙ですね。
週が明けて7日(月)の夕方、出先から会社に戻った僕は、Tから次のように告げられました。
「○○さん(新人のアルバイトの女の子)に業務の引継ぎを行なって下さい。そうしたら、今日付けで終わりにしていただいて結構です。」
「書店営業」の後任は雇わないようなので、僕から営業としての引継ぎは何もありません。
今まで苦労して作ってきた書店や担当者のリストは、一軒分たりとも渡さずに引き上げてきました。
それは良かったのですが、「今日付けで終わり」とは、ずいぶん急な話ですね。
もちろん、『退職願』を出しているので、「会社都合」ではなく「自己都合」です。
入社1ヶ月ですから、有給休暇を使えるはずもないので、今月の給料は7日までの分しか出ません。
正直なところ、「やられた!」と思いました。
(帰宅後、家族から「辞めるのは仕方がないにしても、どうして今日付けなの!」と責められました。)
「不当だ」と主張して、居座る方法もあったでしょう。
しかしながら、『退職願』を受理されてからというもの、僕とY課長に対するTの攻撃は非常に激しく、僕は胃に穴が開きそうでした。
(※後日、あまりにも胃の調子が悪いので、病院に行って胃カメラを飲んだところ、「逆流性食堂炎」が発見されました。)
だから、「今日で終わり」と言われ、ホッとしたのも事実です。
僕は、注文書の処理の仕方など必要最低限の事務について、新人のアルバイトの女の子に説明しました。
そうして、午後10時過ぎ、僕は「短い間でしたが、お世話になりました」と言って、Pプレスを後にしました。
花束贈呈も、社員全員による見送りもありませんでしたよ。
Nさんとは差をつけられたなあ。
それから約2週間後の18日(金)、Y課長もPプレスを退職しました。
Y課長の後任については、Tが「営業代行か派遣会社に頼みます」と言って、片っ端から業者に電話し、連日、面接を行ないましたが、結局、決まりませんでした。
止むを得ず、Y課長は新人の編集部員(女性。上の経理の後任とは別人)に最低限の引継ぎだけをしたそうです。
彼女は今年の春に大学を卒業し、同人アンソロジー(コミック)の編集を希望してPプレスに入社したというのに、いきなり営業に回されて、どんな気持ちなのでしょうか。
今となっては知る由もありません。
彼女は、なかなか人当たりが良いので、営業には向いているかも知れませんね。
「出版社と本屋さんがあってね、その間に『取次』っていう、本の問屋さんがあるんだよ」というレベルから教えたので、心配といえば心配ですが。
現在に至るも正式な営業担当は決まらず、彼女が編集と兼務しながら取次各社を回っているそうです。
残念なことに、最低限の業務だけしか引き継げなかったので、これまでのような積極的な販売促進は望めないでしょう。
先日、ある書店さんに行ったら、コミック担当の方が「Pプレスさんの売れ筋商品が全部、ずっと品切れで困っています」とおっしゃっていました。
在庫が切れた商品は、ちゃんと「重版」しなければ。
既刊の補充注文を取れないままだと、「資金繰り」にも影響しますよ。
頑張って下さいね。
まあ、社長が「営業がいなくても会社は回る」と思っているのですから、何も言うことはありません。
エピソードをひとつ。
Pプレスは、本の発売予定を全然、守りません。
発売直前になってから、何だかんだと理由を作っては発売日を遅らせようとします。
そのたびに、Y課長が必死で取引先にフォローを入れていました。
それも今年の春くらいまでは、「作家さんの体調不良で入稿が遅れた」など、何らかの止むを得ない事情がありましたが、Pプレス独立の前後あたりから、特に理由もないのに、次第に発行日遅れが常態化してきたのです。
ある時、Y課長はたまりかねてTに言いました。
「そちらにも事情はあるのかも知れませんが、何度も何度も発売日変更ばかり、いい加減にして下さいよ。僕が言い訳するのは仕事だから別に構わないですが、取次や書店さん、そして最終的には読者に迷惑がかかるんですよ。」
すると、Tは泣きながら、こう言ったそうです。
「どうして、そんな言い方をするんですか! Yさんが、そんな人だとは思いませんでした!」
この人につける薬はないでしょう。