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NIKKEI NET

社説1 食の安全確保に世界的視野で取り組め(9/26)

 中国の乳製品に有害物質のメラミンが混入していた問題は、乳幼児5人が死亡するなど中国国内で深刻な被害をもたらしただけでなく、世界各地で禁輸や回収の動きを引き起こしている。

 日本でも丸大食品がメラミン混入の恐れがある5つの商品の回収に踏み切った。原料や製品が国を超えて取引される時代には、食の安全にも国際的視点で取り組まなければならない。「対岸の火事」ではありえないことを改めて示したといえる。

 問題の発端は河北省に本社を置く石家荘三鹿集団製の粉ミルクだ。原材料のたんぱく質含有量を多くみせかけるためメラミンが混入されていた。メラミンの長期にわたる摂取が腎臓結石の原因となり、中国では5万人以上の乳幼児が治療を受けた。

 さらに内蒙古伊利実業集団など大手を含む22社の乳製品でもメラミン含有が判明し、食品世界最大手のネスレが中国で生産した製品からも検出された。企業の倫理にも当局の品質検査にも深刻な欠陥があったと断じざるをえない。

 問題が明らかになった経緯にも疑念がある。中国政府の調査によると、三鹿には昨年12月から粉ミルクが原因で乳幼児が発病したとの訴えが相次いでいたが、問題が表面化したのは今月になってからだ。「北京五輪の閉幕まで隠していたのではないか」との見方は根強い。

 中国指導部は食品の安全チェックを担当する国家品質監督検査検疫総局の李長江局長を更迭した。だが、食の安全を確立するための方策は不透明だ。企業倫理の確立や品質検査体制の強化、情報公開の徹底も含めた包括的で透明性の高い取り組みがなければ、国内はもちろん国際社会からの信頼回復は望めない。

 日本ではメラミンの混入は想定外で、検査の対象にしていなかった。中国製冷凍ギョーザ中毒事件の真相が依然として解明されていないなかで、消費者の輸入食品への信頼は大きく揺らいでいる。食品関連企業は原材料にまでさかのぼって安全性をチェックする体制が必要だ。

 政府が輸入食品に対する検査を強化するのは当然である。そして中国政府に食の安全確保を強く求め、必要なら人材育成やノウハウ確立のための協力も積極的にすべきだ。

 世界保健機関(WHO)は加盟各国に中国製乳製品の検査を警告し、欧州連合(EU)の農相会合では監視強化の方針が確認された。こうした国際機関や世界各国との情報交換も進めながら、食の安全確保に全力をあげなければならない。

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