米国の原子力空母ジョージ・ワシントン(GW)が25日、神奈川県の米軍横須賀基地に配備された。原子力空母が米国外を母港とするのは初めてである。
在日米海軍はGWを紹介する200ページの漫画を作成、地元で配布した。発行は今年4月。日系米国人の新兵を主人公にし、米国から横須賀に向かうGW艦内や訓練の様子、日常生活を描いたもので、原子力空母の配備に対する地元住民の不安を和らげるのが目的のようだ。
漫画には、航行中のGWで火災が発生、主人公が消火に活躍する場面もある。
本物のGWは、日本に向けて南米沖を航行中の5月に実際に火災が発生し、37人がけがをした。漫画では航行に影響はなかったが、本物は修理のため横須賀到着が予定より1カ月以上遅れる事態となった。原因も、漫画では洗濯乾燥機の過熱だったが、現実の火災はたばこの投げ捨てという悪質なものだった。
原子力艦船は、小さなトラブルや事故が周辺住民を巻き込む重大事態に発展する可能性がある。火災事故を踏まえ、日米両政府が事故防止と発生に備えた十分な体制をとるのは当然だ。
米国はGW配備を控え、06年に原子力軍艦の安全性に関する「ファクトシート」を日本政府に提示した。この文書は放射性物質の放出などの「事故が起こるシナリオは極めて非現実的」などと繰り返し、事故は起きないという立場に貫かれている。日本への過去の寄港で、環境中の「放射能の増加をまったく引き起こしていない」とも強調している。
しかし、これを疑問視する声は強い。68年5月、原潜ソードフィッシュが長崎・佐世保港に入港時、日本の放射能監視艇が原潜周辺で通常の10~20倍の放射能を測定した。06年9月には、原潜ホノルルが横須賀基地を出港後、周辺海域でコバルト58とコバルト60が検出された。いずれも、米国側は原潜との関係を否定し、真相の究明はうやむやになっている。先月には、沖縄・ホワイトビーチ沖に停泊し、佐世保港に寄港した原潜ヒューストンで、06年6月から今年7月にかけて放射性物質を含む冷却水が漏れていたことも判明した。
日本側の対応を制約しているのが、米軍の軍事機密の壁である。原潜が初めて日本に寄港した64年、米政府は声明で「技術上の情報を提供しない」し、「技術情報入手の目的で乗船するのを許可しない」と宣言している。ヒューストンの放射能漏れに関する情報も、外務省は米側の連絡をそのまま発表する以外に手だてはなかった。
事故が発生したり、その疑いがある場合には、米軍からの通報だけに頼るのでは不十分である。日本政府は、「立ち入り」を含めた十分な対応を米政府と取り決めるべきだ。そうでなければ、住民の不安に応えることはできない。
毎日新聞 2008年9月26日 東京朝刊