殺虫剤やカビに汚染された輸入米の転売事件で、大阪、福岡、熊本3府県警が食品衛生法違反などの疑いで、三笠フーズ(大阪市)の強制捜査を始めた。食への不信を極限まで高めた悪質な犯罪である。徹底した責任追及を望みたい。
汚染米は食用に偽装されたり、米粉やでんぷんに加工されて学校、病院、高齢者施設の給食、市販の弁当類にまで使われていた。消費者や現場の不安は募る一方だ。
三笠フーズは当初、米の表面を削り、安全性を検査して出荷した、と釈明していた。だが、「検査は気休め程度」という社員の証言がある。大阪市の検査でも一部の米から安全基準の2~6倍の殺虫剤成分が検出されている。
いまのところ健康被害の訴えはないが、出荷された期間が長く、蓄積された場合の影響が心配される。
三笠フーズは、汚染米の危険性は認識していたことを明らかにしている。消費者の安全とひきかえに大きな利益を手にする行為は、厳しく指弾されて当然だ。 「米転がし」といってもよい、度重なる転売の全容を解明し、不当な利ざやを稼いでいた業者は、詐欺罪の適用を含めて追及していくべきである。
こういった不正を横行させていた農林水産省の罪もまた重い。
売却契約に当たって業者の都合を優先し、加工工場への立ち入り検査もずさんだった。昨年1月に「食用に転売されている」という匿名の告発があったのに、手をこまねいてきた。
農水省大阪農政事務所の幹部が、三笠フーズから接待を受けていたという癒着の疑惑もある。
汚染米は工業用の需要も限られ、倉庫に保管しているだけで経費がかかる。だから、大口の得意先を確保するため、業者の不正転売に感づきながら、本省から出先まで農水省ぐるみで目をつぶっていた、と疑われてもやむを得まい。
石破茂・新農相は、農水省の意識、組織改革を進める方針を示し、対策本部を設置した。安全検査を他の機関に移管することも検討するという。
販売業者の公表の不手際で風評被害を招くなど、農水省は当事者能力を失っている。この機会に、警察の捜査に協力して内部のウミをえぐり出すことも欠かせまい。
農水省の組織としての責任は、国会の場で糾明されなければならない。学童や高齢者の健康影響確認をどうするかなども喫緊の課題だ。政局の混迷が続くが、党利党略を離れて最優先で取り組む必要がある。
「何も信用できない」という事態が、政治の無策でこれ以上拡大することがあってはならない。農水省と業者のもたれ合いの構図を明らかにし、農水行政の腐敗にメスを入れなければ、国民は納得できない。
毎日新聞 2008年9月26日 東京朝刊