●「仕組み」の経済学―21
上場会社の社長は、金融商品取引法に基づき、今年度から内部統制報告書の提出が義務付けられる。これは、米国のSOX法(企業改革法)を模倣したもので、J―SOX法とも略称される。
企業に優しいこの国では、虚偽記載の処罰も5年以下の懲役などと、米国よりはるかに甘い。だが、経営者が悪意の場合のみならず、無能や不作為の結果で内部統制に欠陥があれば、刑事罰に処せられる意味は大きい。
企業経営者の環境が過酷になるのに対し、行政トップの無責任ぶりと責任回避は好対照である。直近の事例では、事故米を巡る農水省の稚拙な対応が明らかになった。大臣や事務次官は辞任したとはいえ、役所の責任回避は際立っている。
内部統制は、英語でインターナル・コントロールと言う。組織を有効・効率的に運営、財務内容を適正に報告、構成員に倫理観を植え付ける体制を整備すべしという至極当然のことに過ぎない。
我が国の行政組織は、信頼に足る財務報告も、有効・効率的な組織運営も全省庁でほとんどできていない。倫理観の醸成はコンプライアンスといい、法令順守と言われるが、自ら都合のよい法令を制定し、裁量的に判断を下す役所には、本来はるかに高潔な倫理意識が求められる。
J―SOX法も必要だが、むしろ真っ当な組織整備と運営ができない行政トップに刑事罰も含む厳しい責任を問うG―SOX法(官僚改革法)を制定すべきである。国の政治・経済・社会構造の中で無責任のブラックホールが拡大し続ければ、国内では悪質業者をはびこらせて国民を裏切り、海外にも信を立てることはできない。(四知)