ホーム > きょうの社説


2008年9月26日

◎佐渡でトキ放鳥 野生で生きてほしいが・・・

 佐渡のトキ保護センターの野生復帰ステーションで、自然界へ返るための「訓練」を受 けていた十羽のトキが試験放鳥された。大空で羽ばたく美しい姿の報道写真に胸がときめいたが、野生で生きていけるのかどうか、疑問や不安もわいてくる。

 国の特別天然記念物で国際保護鳥のトキは外敵その他から生息できる環境条件が狭く限 られている。兵庫県で野生への放鳥に成功したコウノトリに比べて、はるかに神経質で、たくましいとはいえないといわれる。トキの放鳥も成功してほしいが、楽観できないものがある。

 トキはかつて日本のいたるところに生息していたとの記録がある。それがとりわけ戦後 の高度成長が始まるや、環境が激変し、能登と佐渡だけで辛うじて生き残るまでに追い詰められた。今使われているものより毒性の強い農薬散布で田んぼや水辺の小動物がいなくなった。それらはトキのエサだったから、いわば兵糧攻めに遭ったのだ。外敵が近づいても素早く逃げることができない、動作のゆっくりした鳥だからいったん減少に向かうと滅びへのテンポもはやまり、能登のトキは一九七〇年代に、佐渡のトキは一九九五年に絶滅したのである。

 トキ保護センターで増えたトキは中国からきたものばかりだ。正直に言えば、かつて炭 鉱の労働者が酸欠の危険が迫るのを察知するために変化に敏感なカナリアを連れて働いたといわれる。トキはそのカナリアにも似ていて、放鳥にまでたどり着いた飼育関係者の苦労に感謝する半面、痛ましい感じも抑えがたい。

 中国からきたトキは百二十二羽(うち十二羽は東京の多摩動物公園で分散飼育)になっ た。が、日本の生息環境が劇的に変化したことや、鳥インフルエンザから守ってやらねばならないこと等々を考えると、当面は動物園での分散飼育が重要で、これをしっかりやりたい。トキの近縁種の繁殖に成功した石川県の「いしかわ動物園」も分散飼育に名乗りを挙げている。野生へ返してやることは数千羽に増えてからの方が無難だ。段階を踏んだ取り組みを望みたい。

◎4回目の金沢検定 子どもの次のステップに

 金沢市が実施した「ジュニアかなざわ検定」で初めて満点を取った中学生の次の目標は 、金沢検定に合格することだという。今年で四回目を迎える金沢検定が、ふるさとに関する知識の広さと深さを測る機会として児童生徒にも浸透してきている様子がうかがえ、喜ばしい。昨年の金沢検定では初めての十代の初級合格者も出ている。今後も、ジュニア検定の次のステップとして金沢検定合格を目指す児童生徒が増えることを期待したい。

 金沢検定は、過去三回の合格率などを見ても分かるように、大人でも簡単には合格でき ない難関であるが、高い目標は、児童生徒の学ぶ意欲をさらにかき立ててくれるはずである。「ふるさとをもっと知りたい」という児童生徒の意欲を引き出すために、家庭はもちろん学校でも、ジュニア検定とともに金沢検定への挑戦を積極的に勧めてほしい。

 二〇〇六年度からスタートしたジュニア検定の受験者数は、一回目が八百五人、二回目 が千二百十八人、三回目の今年は千四百七十五人と順調に伸びている。二回目以降は実施時期が八月に変更されたこともあり、小学校では、夏休み中にふるさとの歴史や文化などについて学ぶ機会を設けた上でジュニア検定を団体受験する動きが広がっているという。「ふるさと教育」の熱気を高めるのがジュニア検定の目的であり、歓迎すべき傾向と言えよう。

 ただ、せっかくの「熱」が、夏休みの終わりと同時に冷めてしまうのはもったいない。 そうならないようにするための手っ取り早い方法は、やはり次の目標を設定することであり、金沢検定をうまく活用して児童生徒の「熱」を持続させてもらいたい。

 児童生徒がジュニア検定を目指してふるさとをより詳しく知る努力を重ね、そこで自信 をつけて金沢検定にも挑戦するという流れが定着すれば、大人の受験者もうかうかしていられなくなる。結果的に両検定の一層の活性化にもつながろう。子どもと大人が互いに刺激し合い、ふるさとを学ぶ機運をさらに盛り上げていきたい。


ホームへ