麻生内閣が始動した日、佐渡の空にトキが舞った。人工繁殖で手厚く保護された10羽の旅立ちである 新内閣の世襲議員は11人。政治家の血と厚い地盤とを受け継いだ人たちである。もっとも、世襲議員のひ弱さは、先の2代の総理でさんざん知らされた。「ワンマン」「暴れん坊」「風見鶏」などの血が、大成を保証しているわけではない 新首相の失言癖も、祖父・吉田茂元首相の血なのだろうか。祖父の残した有名なせりふは「曲学阿世(きょくがくあせい)の徒(と)」。辞書を引かなければ分からぬような悪態である。真理を曲げて世間におもねる、と首相も敵陣営を批判するが、祖父のこの貫禄(かんろく)には及ばない だからといって、昔を懐かしんでも仕方がない。トキが自然繁殖する中国の奥地は貧困な農村地帯で、戦前の日本の田舎そっくりだそうである。そんな環境がトキの楽園だとすれば、今の日本には到底できない逆戻りである トキの前途は多難だろう。それでも、飼育舎から巣立った10羽に多くの人が温かい手を伸べ、優しいまなざしを注ぐ。同じく多難を思わせる「世襲内閣」には、うらやましい限りだろう。
|