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「どうして専門機関を訪ねないの?」

NINA / 2008.09.21 15:34 / 推薦数 : 0
コメントでご質問いただいたのですが,とても重要なことだと思うので記事にして取り上げさせていただこうと思います。


保育園・幼稚園や学校,塾などで先生方から見て「この子,発達の問題があるかも?」と思われること,結構多くあるかもしれません。
先生方から見ると,とっても気になるであろうこどもたち。
ちゃんと専門機関にかかって,診断がついたほうがいいんじゃないのかな?
このままだとしんどいことが積み重なって,いずれ二次障害が出てきちゃうんじゃないかな?
そんなふうにご心配いただくこともきっと少なくないですよね。

こどもたちを丁寧に見て,気に掛けてくださって,本当にありがとうございます♪

さて,そんなとき「親御さんはこの子のこと,気にならないんだろうか? 専門機関へ行ってみようと思わないんだろうか?」と疑問に思われたり,もどかしく思われたりすることもあるだろうと思います。

これは,あくまで私の予想なのですが,…

親御さん,こどもさんに発達障害の可能性があることに気づいていらっしゃらないんじゃないでしょうか。

軽度発達障害の概念が広まったり,特別支援教育が始まったりしたことで,先生方をはじめとする「専門家」たちのなかではグレーゾーンも含めて発達に問題のあるこどもたちにとても敏感に反応してくださるようになってきたと感じます。特に,熱心な先生方ほど高感度のアンテナを張り巡らせてこどもたちの発達の問題をキャッチしてくださっていて。

でも,親御さんたちは普段の生活のなかでそこまで新しい情報に触れることはないはず。
「ひょっとして…」と発達の偏りなどを疑ってくださったとしたら,インターネットなどでもさまざまな情報を見つけることはできるでしょうけど,そうでなければ情報のほうから飛び込んでくることはないでしょうし。
さらに,親御さんはご自分のこどもさんのことはよく見ておられるとしても,その年齢のほかのこどもたちとの違いに気づくほどたくさんのこどもたちの様子を見て比較する機会はないはずです。

だから,特にグレーゾーンのこどもさんだったりした場合には勉強のことや躾(たとえばTPOに合わせた振る舞い)のことなど,もしも気になっていたとしても「うちの子がちゃんとやらないから」「私の育て方が悪かったから」という方向に考えが向いてしまいがちで,こどもさんの持って生まれた特性のためじゃないだろうか,とか,専門機関に相談に行ったほうがいいだとか,そういう発想にはならないのではないでしょうか。

だから,こどもたちの発達障害に気付いていない親御さんを責めてはいけない,と私は思っています。

そして,もしも気付かれたとしても,こういう事情で受診になかなか至らないこともあるのだろうと思います。

それから。
学校などの先生方から「障害があると思うから受診してみては?」と勧めていただくこともあると思います。
先生方や私たちのイメージする発達「障害」と,親御さんが一般的にイメージする「障害」にはまだまだかなり大きな開きがあることが予想されるので,できれば受診を勧めていただくときには「障害」ということばを使わないでいただくと誤解が生じにくくていいのかな,と思ったり。

たとえば「息子さんは授業中も本当にがんばっているというのがよく伝わってくるけど,私(先生)の教え方だとうまく理解しにくいことがあるよう。以前,同じようなこどもさんを担当したことがあって,そのときは専門機関に相談に行っていただいたらその子に合わせた伝え方があるとわかって,学校としてもうまく教えてあげられるようになったし,その子自身の力もぐんぐん伸びていって自信がついたようだった。私が気にしすぎているだけかもしれないけど,私たちが彼の個性や特徴に配慮して関わればもっとうまく教えられたりするかも知れないので,念のため専門機関に行って相談してみてはいただけないだろうか?」くらいの勧めかたをしていただけると,親御さんも「そんなこともあるのかな?」と受診していただきやすくなるかもしれません。

ぜひとも先生方からは,「障害だというレッテルを貼りたいわけじゃない,こどもさんのためによりよい方法があるなら知りたい」と,そんな思いを親御さんに伝えていただきたいのです。

そしてせっかく受診していただけたのなら,私たち専門家は,親御さんやこられどもさんたちを責めず,お役に立てそうな情報を精いっぱい提供し,これまでのがんばりをねぎらって,お力になれたらいいな,と思っています。
勇気を振り絞って受診していただいたことを絶対後悔させたくないし,絶対無駄にしたくない。

そんな思いで,診察室へ来てくださるこどもさんと親御さんをお待ちしている毎日です。

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コメント

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詳しいご回答を有難うございました。
そして、NINAさんの所に来る親御さんは、
覚悟が決まっている方なのかな?と言うのが
私の正直な感想です。

確かに、ご指摘のように、
発達を疑わない親御さんはおられます。
が、、、子供さんの「要注意点」に、
「私の説明の前に」過敏に反応する親御さんも…。
つまりその「要注意点」の意味が
分かっておられるからだと思います。
(この要注意点は発達障害の知識がないと
気がつかない種類のものです)

では、なぜ専門機関へ相談に行かないのか?
と言う事になりますが、
やはり「親御さんにとって」
今の公的なあるいは、専門機関のサポート体制は
魅力がないのかな?と言うのが私の正直な意見です。

実際、診断を受けても何のサポートもなく
終わっている方もおり、「診断→サポート」とは
行かない現状も見てきました。

そして、基本的に私が伺うご家庭では、
学校と仲が悪い(意見の相違や衝突が見られ、
学校も性格や躾の問題と捉えているようです)
加えて、教育委員会と揉めている場合もあり、
この現状も変えていかなければならないと思います。

私は「基礎学力」を必要としている人を見る、
と表向きはそうなっていますが、
この看板を「発達障害の方」にすると、
おそらくグレーゾーンの方のサポートは
不可能なのです。(私の腕の問題もありますが…)

欧米では、大学の単位が「配慮」されたり、
あるいは、学校内で1対1のサポートがついたり、
おそらく診断がついた方が、格段に
子供さんが生きやすいのだと思います。

また小学1年生のときに、
発達についての講演会や相談会が、
いわゆる乳児期の健康診断のように、生徒全員に、
学校以外の「専門機関で」あれば理想的かも…です。

たまにめげそうになる時もありますが、
(特に発達の度合いや、種類が広範囲な時)
NINAさんのブログを拝見しつつ、
知恵を振り絞ろうと思います。

有難うございました!
また遊びに来ます。

written by denden171 / 2008.09.21 17:29
早速コメントをありがとうございます。

親御さんが発達障害の診断の可能性を既に考えておられるにもかかわらず受診しようと思われないのだとすれば,おそらく過去記事「受診の障壁いろいろ?」(http://blog.m3.com/pedopsy/20080826/1)に書いたような理由によるのだと思います。特に「3.こどもさんに実際に診断がつくことが不安」「4.診断がついたあとの展望がみえない」あたりでしょうか。

4.については,確実に私たち専門家の責任です。

> 実際、診断を受けても何のサポートもなく
> 終わっている方もおり、「診断→サポート」とは
> 行かない現状も見てきました。

私もこういうこどもさんを何人も見て(診て)います。思い切って受診してくださって,わざわざ何時間も掛けて検査を受けていただいて,診断だけは付けられたけど(でも告知も中途半端だったり…)サポートはまったく受けられてないまま,とか。そんなのって全然専門家の仕事と言えないですよね。本気で腹が立ちます。

診断をつけたなら,ご家族と学校の間に入って関係修復(?)に努めるのも専門機関の仕事のひとつだろうと思います。学校がどんなに性格や躾の問題だと主張していようとも,専門家が診断した以上,学校側には特別支援教育を行う義務が発生します。こどもさん本人に対してどのような特別な支援をしなくてはならないかを専門家として説明するのも私たちの責任ですよね。

(続きます)
written by NINA / 2008.09.21 21:58
つづきです。

ご家族が診断を受け容れている場合には,学校や教育委員会に「加配の先生をつけてほしい」みたいな要望を出して,人員配置の都合などでそれはできないと断られるといったこともよく起こります。「もっと程度の重い子がいるのでそちらが優先」だとか言われて。
その場合も,加配は諦めるにしても担任をはじめ本人と関わる先生方全員にそのこどもさんに対して特別な支援を行う義務があることに何ら変わりはありません。その子の特性に合わせて教材を工夫するとか,授業中個別に声掛けして理解の度合いを確かめるとか,加配がつかなくてもできることはたくさんあるはず。
そういう当たり前のことも,保護者だけに主張させるのでなく専門機関としてきちんと学校・教育委員会に伝えないといけない,と私は思っています。

たしかに,塾や家庭教師の先生がご家族と学校&教育委員会の間を取り持つというのは難しいことだろうと思います。私たち精神科医が特別支援教育も念頭において今よりもきめ細やかに動かないといけないところです。反省…もっともっとがんばっていきたいと思います!
written by NINA / 2008.09.21 21:59
以前コメントして頂き、ありがとうございました。

今回も保護者の立場からですが。
子供には発達障害を疑う場面や育てにくさが多くあり、小児科医や保健師に相談したものの、小児科医や保健師から出る言葉は「気にしすぎ」でした。目の前にいる子供にどうして良いか分からず、身体的精神的に追い詰められていきました。

その後、子供が身体科や小児救急を受診すると、発達の問題を指摘され専門医の受診を勧めて下さり、調べると地域によっては早期発見早期療育を勧め、保健行政が母子をサポートしていることを知りました。
自分の地域にないか、探し回りましたが「低月齢なので無い。そんな月齢で相談に来る親子はいない」
などと全く相手にされず、疲れ切った私は「もう楽になりたい」という心境になってしまいました。

何とか保健所で高度医療施設への紹介状を、そこから派遣されている医師に書いてもらうことは出来ましたが、自分で該当の科に電話予約して下さいと保健師に言われ、電話するものの、予約が殺到しすぎて電話が混んでいて繋がらず。繋がったと思ったら職員に話を聞かれ、職員の判断にて断られ受診出来ませんでした。

せっかく指摘してくれた医師はいたのに、専門医に辿り着かない。「もうどうでもいいや」という心境になりましたが、それからも調べ続け、自分で医師を見つけ、現在は子どもに合った助言をもらえるようになりました。

それでも、子供の検診で小児科医や成人の精神科医と話す機会があり、身体科や小児救急からの指摘について話すと「まだ小さいから発達障害なんて分からないよ。気にしすぎ」と神経質扱いされ、少しでも早く親が子供の発達障害を察知したり、他の医師の指摘を
話しても否定され、聞くことも話すことも許されない状況です。

情報過多によって、子供の様子に過敏になりすぎている親として捉えられ対処してもらえないことは今も多くあります。無理解な医療関係者や保健行政の対応で、不幸な結果にならないよう努めて頂き専門医や専門機関への受診には高すぎる壁があることを知って頂きたいと思います。
written by あかね / 2008.09.24 02:51
あかねさん,再訪&コメントをありがとうございます。

あかねさんのおっしゃること,とてもよくわかります。私自身も経験がもっともっと少なかった頃には親御さんをがっかりさせるようなことをたくさんしてしまっていただろうな,と今になって反省させられることがたくさんあります。

いろいろ考えさせられるコメントをいただいたので,記事にして取り上げさせていただくこととしました。
言い訳がましい記事になるかも知れませんが,読んでいただけたら嬉しいです。
written by NINA / 2008.09.25 00:51
NINA先生

現場で頑張っておられる中、言葉が足りず失礼致しました。
後出しですみません。私が住む地域は受診希望者が多いので、児童精神科への
アクセス制限が厳しく、行政も支援が行き届いた街への転居を勧めるなど。
私たち親子のように、行く場のない親子が多くおり、微力ながら
保健行政に働きかけています。
先生が情報を発信して下さることで、私たちのような
行き場のない親子は救われ感謝しております。
written by あかね / 2008.09.25 10:10
あかねさん,あの…お詫びを言っていただく理由がまったく思い当たらないです(焦)。どうか,何もお気になさらないでくださいね。

あかねさんのお住まいの地域,本当に大変な状況なのですね!
児童精神科を受診したいこどもさんや親御さんが門前払いされたり(障害の程度によらず,せめて一度は医師に会うことは保障されるべきでしょう!),支援が行き届いた街への転居を勧められたりする(本人や親御さんが選ぶのならまだわかるけど,行政から「うちの地域じゃできません」って堂々と言われるのは納得いきません!)だなんて。

私の居住地はあかねさんのところと比べるとかなり後進地域のようですが,それでもその地域なりの問題をいろいろ抱えています。

私たちもがんばって解決していかないといけないことがたくさんあるし,あかねさんやこどもさんのように本当に支援を必要としている方々が「そんなことじゃダメだよ,本当に困ってるんだから!」と声をあげて必要性を訴えてくださることはとても心強く感じます。

魔法のような劇的な変化が起こることは期待できないけれど,少しずつ状況が変えていけるとよいですね。お互いがんばっていきましょう!
written by NINA / 2008.09.25 22:02

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