自民党の麻生太郎総裁が首相に選出され、新内閣が誕生した。明るいキャラクターの麻生首相は、次期衆院選に臨む“顔”として与党の期待は高い。だが、二代続けて首相が政権を投げ出した自民党に対する国民の不信感は強い。どう政治の信頼回復を図るか、麻生首相の力量が問われよう。
組閣にあたって首相が最もこだわったのは、選挙に強い布陣を敷くことだったとされる。民主党と政権をかけて争う早期の衆院解散・総選挙が取りざたされる中で、当然といえる対応だろう。
注目された新内閣の顔触れは、要といわれる官房長官に河村建夫元文部科学相が起用された。首相に近い人物である。気心が知れた仲間で難局を乗り切るつもりのようだが、やや存在感が薄くインパクトに欠けた感は否めない。
総裁選の最中に麻生氏と調整した上で後期高齢者医療制度の大幅見直しを打ち出した舛添要一厚生労働相は、予想通り続投が決まった。食の安全対策が緊急課題になっているため、野田聖子消費者行政担当相も再任となったようだ。
総裁選で麻生氏の選対本部長を務めた鳩山邦夫元法相が総務相に就き、論功行賞的な人事になった。戦後最年少となる小渕優子衆院議員が少子化担当相で初入閣するなどしたが、全体的に地味な布陣で、重厚さも清新さもあまり感じられない。
新内閣の発足に伴い、政治家や国民の最大の関心事は、首相がどのタイミングで衆院解散・総選挙に踏み切るかだろう。首相の所信表明演説の直後や、各党の代表質問を受けた後など見方はさまざまだ。
首相は減速する景気への対策を最重要課題に位置付けている。臨時国会では、総合経済対策を裏付ける二〇〇八年度補正予算案の成立を最優先する意向を示す。政府が対策をまとめた以上、実行に向けて最大限の努力をするのは筋だろう。
民主党は補正予算案を短期間で成立させた上で、解散・総選挙に入る日程の協議に応じる構えを見せている。与党内には反対論もあるが、ここは与野党の話し合いによる早期解散が妥当ではないか。
米国発の金融危機や北朝鮮の拉致問題、社会保障改革など新政権にとって短期、中期の課題は山積する。近く行われる所信表明演説で、首相は目指す政治の方向性を明確に示すとともに、政策の中身を具体的に分かりやすく語る必要がある。政権をかけた国会論戦のスタートにふさわしい内容を期待したい。
イスラマバードの米国系ホテルで起きた大規模な車爆弾テロを受け、ブッシュ米大統領とパキスタンのザルダリ大統領がニューヨークで会談、対テロ作戦を強化することで一致した。
親米派だったムシャラフ前大統領が八月に辞任し、約九年ぶりに本格文民政権としてザルダリ氏が後任に就任後、両国の首脳会談は初めてである。
テロが起きたのは二十日夜のことだ。パキスタン政府の発表では、チェコの駐パキスタン大使を含む五十三人が死亡、二百六十六人が負傷したという。同国の政情不安を如実に現す惨事となった。犯行組織はまだ突き止められていないが、要人を狙ったイスラム過激派の可能性がある。捜査当局は、国際テロ組織アルカイダに関連した組織の犯行との見方を示している。
会談でブッシュ大統領は、パキスタンの国土防衛のため「主権と義務」を両立させる必要があると表明、ザルダリ大統領は「負担と責任を分かち合う」と応じ、対テロ協力を約束した。
米国はアフガニスタン国境に近いパキスタン北西部の部族地域を重点に、ミサイル攻撃や特殊部隊による地上作戦でテロ掃討を強化している。この地域にアルカイダ幹部らが潜伏、イスラム原理主義勢力タリバンと合流して対米攻撃を強めているとみているからだ。
ただ、今回のテロは、テロ掃討を強める米国に追随するザルダリ政権への「警告」とも受け取れる。連携を強化するほど報復テロの脅威が増すジレンマを抱え、果たして対テロ戦略で万全が期せるのか、両国とも難しいかじ取りを迫られよう。
政情不安によってパキスタンが持つ核がテロ組織などに流出することだけは何としても避けねばならない。国際社会の支援、緊密な連携も欠かせまい。
(2008年9月25日掲載)