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連載終了にあたって(下)今こそ求められる日本の「國體」
FujiSankei Business i. 2008/9/24

グルジア紛争は国際問題の解決のために「戦争」を選ぶハードルが著しく低くなっていることを示した=グルジア南オセチア自治州を走行するロシア軍(AP)
グルジア紛争は国際問題の解決のために「戦争」を選ぶハードルが著しく低くなっていることを示した=グルジア南オセチア自治州を走行するロシア軍(AP)
 
 論壇には一種のステロタイプがある。例えば、靖国神社の英霊を大切にする論者は、アイヌ民族の先住民族としての権利を確立することについては否定的で、北方領土問題に関しては四島一括返還論をとなえるといった傾向である。筆者の理解では、これらの問題は、それぞれ独立しており、自分の頭で考えて結論を出さなくてはならない事柄だ。

 靖国問題について、まず霊を信じる人とそうでない人を分けるべきと思う。筆者は霊を信じる。さらに戦争で日本のために命をささげた英霊を信じる。その英霊について、霊の存在を認めない唯物論的無神論を掲げる中国共産党政権がうんぬんすること自体がそもそもおかしな話と考える。靖国問題は中国のナショナリズムが日本を「敵のイメージ」にしながら形成されつつある中ででてきた疑似争点と認識している。この問題で日本が全面的に譲歩しても、中国は別の反日的なテーマを見つけ出すだけだ。従って、主権国家で、民主主義的な手続きで選ばれた小泉純一郎総理(当時)が公約に従って靖国神社を参拝することについて、他国からうんぬんされるべきでないという「薄っぺらい論理」を展開することが国益にかなうと考えた。

 アイヌ民族が北海道、北方領土、千島列島、サハリン(樺太)の先住民族であることは歴史的事実である。さらにアイヌ民族が先住民族として北方四島、さらにサハリンの石油・天然ガス資源を要求することができる環境を整備することが日本の国益にかなうと筆者は考える。日本がアイヌ民族の先住民族としての権利を尊重しないと、ロシアが日本に在住するアイヌ民族にロシア国籍を付与する可能性も十分に考えられる。そして、「ロシア国外の自国民保護」という口実で、日本に対して圧力をかけてくる可能性も想定される。現にロシアは、グルジア領内のオセチア人、アブハジア人に対してロシア国籍を付与し、「同胞を保護する」という口実で、軍事侵攻を行い、南オセチア、アブハジアの独立を承認した。ロシアがアイヌ・カードを用いる場合について国家安全保障の観点からきちんとした分析を行わなくてはならない。

 日本政府は、1991年秋に路線を転換し、四島一括返還をロシアに対して要求しなくなった。「北方四島に対する日本の主権が認められるならば、返還の時期、態様、条件については柔軟に対応する」という段階的返還論に転換したのだ。しかし、政府、外務省はそのことを国民にきちんと説明しなかった。外務官僚が「右バネ(右翼)」に「軟弱な態度をとっている」と批判されることを恐れたからだ。日本の外務官僚には「右バネ」に対する過剰な恐れがある。右翼的潮流に迎合するか、逃げ回るかのいずれかである。外務官僚に右翼の人々と誠実に話をするという腹が欠けているからだ。外務官僚が表面上、勇ましいことを言っているときは、右翼対策であることが多い。

 北方領土問題、竹島問題は日本が抱える2つの領土問題であるが、外交官の仕事は、日本国内では「軟弱だ。国賊だ」と非難され、相手国からは「報復主義者だ。帝国主義者だ」と非難される宿命を負っている。そうしなくては現実の外交は動かないからだ。筆者は、現役外交官時代、北方四島を日本に取り戻すために命を賭して仕事をしたつもりだ。いまも知恵を働かせ、腹のある外交交渉をすれば北方領土返還は実現できると考えている。それだから現実的北方四島返還につながる柔軟路線を支持している。

 筆者の言説は、従来の右翼、左翼の図式に収まらない。それは当たり前のことだ。現実の国際政治が左右の対立図式で動くことを20年近く前にやめているからだ。東西冷戦後、国際協調時代という幻想が数年間続いたが、現実の世界は、各国が露骨に自らの利益を追求する帝国主義時代を反復している。それに9・11米国同時多発テロに代表される国際テロリズムが加わった。ボタンの掛け違いから、第三次世界大戦が起きかねない時代にわれわれは生きている。特に8月のロシア・グルジア戦争以降、国際問題を戦争で解決する際のハードルが著しく低くなった。このような状況で、日本国家と日本国民は必死になって生き残っていかなくてはならない。そのためには、日本の国家体制の基礎、伝統的な言葉で言う國體(こくたい)を強化しなくてはならない。日本人の同胞意識が強まれば國體は確実に強化される。

 これまでの連載を支持していただいた読者に感謝します。

 =おわり

連載終了にあたって(下)今こそ求められる日本の「國體」 (2008/9/24)
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 同志社大学大学院神学研究科修了。外務省入省。ソ連崩壊を挟む1988年から95年まで在モスクワ日本大使館勤務の後、本省国際情報局分析第一課へ。主任分析官として活躍したが、2002年5月、背任などで逮捕。05年2月に執行猶予付き有罪判決を受けて控訴中。著書に「国家の自縛」(産経新聞社)など。46歳。東京都出身。


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