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連載終了にあたって(上) 左右の「バカの壁」破ろう
FujiSankei Business i. 2008/9/17

外務省の分析官として、ソ連・東欧の社会主義の現実を体験、体制の崩壊を目撃した=モスクワの赤の広場とクレムリン宮殿
外務省の分析官として、ソ連・東欧の社会主義の現実を体験、体制の崩壊を目撃した=モスクワの赤の広場とクレムリン宮殿
 
 10月にフジサンケイビジネスアイが全面リニューアルを行う関係で、本連載もあと2回で終わりになる。この機会に、連載全体について振り返っておきたい。

 現在、筆者は30以上の連載を抱えているが、この「地球を斬る」はそのうち2番目に古い連載だ。連載が始まるきっかけは、当時、本紙のデスクを務めていた宮本雅史氏(現産経新聞編集委員)からの慫慂(しょうよう)だった。宮本氏が検察に強い記者であることは、業界関係者の間で有名である。しかし、検察の御用記者ではない。検察から貴重な秘密情報を頂くが、書くときは、情報提供者の側に問題があれば、そのことも含めて書くというプロ根性が入っている。一時期、宮本氏はノンフィクション作家として活動していた。そのころ、筆者は宮本氏と知り合った。

 筆者は、外交官などという職についていたので、社交的であると勘違いされることが多いが、実は人見知りが激しいので、仕事以外で人と会うことは、極力避けることにしている。本を読んで、抜き書きや感想をノートにつづり、ときどき家内ととりとめのない話をし、猫たち(現在、雑種の雄猫を3匹飼っている。自宅の庭に常時餌を食べに来る地域猫2匹=雄1匹、雌1匹、いずれも去勢・避妊手術を済ませている)と遊んでいるのが楽しい。猫は人間と異なり、ひとたび成立した信頼関係を崩すことがないので、安心して付き合うことができるのである。他の作家との付き合いももちろんあるが、仕事を離れて食事をするのは、今は2人だけだ。「今は」というのは、以前は、もう1人、米原万里さんとときどき食事をしながら意見交換をしていたからだ。残念ながら、2006年5月25日に他界されてしまった。

 筆者が親しく付き合っている作家の一人が魚住昭さんだ。魚住さんも共同通信社会部の時代、東京地検特別捜査部に食い込んだ記者として有名だった。1997年に上梓した『特捜検察』(岩波新書)において魚住氏は、特捜検察の活動に強い共感を示した。しかし、4年後の2001年に刊行した『特捜検察の闇』(文芸春秋)では、特捜検察の活動について評価をほぼ180度転換させる。その辺の事情については、ぜひ、2003年に文春文庫になった『特捜検察の闇』を読んでいただきたい。この版に魚住氏が加筆した部分に筆者の事件についての言及がある。その評価が、筆者の自己認識ときわめて近いので、筆者から魚住氏にアプローチをした経緯がある。筆者と魚住氏はよく飲み歩くようになり、何回か宮本氏とも席を一緒にしたことがある。

 魚住氏は自他共に認める左翼であるのに対し、宮本氏は自他共に認める右翼である。靖国問題や「慰安婦」問題では、見解が正面から対立するが、検察の現状については憂いを共有する。あるとき宮本氏が、「もはや過去のしがらみにとらわれて、右とか左とか言っている場合ではない。そういうことを超えて、もっと本質的な問題について論じなくてはならない」と言った。これに対して、魚住氏が「僕もその通りと思うんです。左右の壁を越えて、真剣に論じなくてはならないことがいくつもある。それには作家や編集者の一人一人が少しだけリスクを負って、何かしなくてはならない」と言った。この言葉に筆者は触発されたのである。

 筆者自身は、右翼で国家主義者であるという自己認識をもっている。同時にマルクス主義についての基本知識はもっているつもりだ。また、ソ連・東欧に現実に存在した社会主義について、理論だけでなく、現実を経験した。そして、この社会主義体制の崩壊を目撃した。左翼の内在論理も一応わかるつもりだ。もはや有効性を喪失した左翼、右翼という「バカの壁」があるために有識者においても、広く国民全体においても日本のために議論しなくてはならない問題が議論されず、レッテル張りと罵倒(ばとう)の応酬が続いていることは問題であると痛感した。

 そこで、宮本氏から連載のオファーがあったときに「産経新聞グループの社論ぎりぎりのところで左右の『バカの壁』を破る実験をしてみようと思うんですがいいですか。ときに外務省と緊張した関係になるかもしれません」と伝えると、宮本氏は「僕は腹をくくっている。できるだけのことをする」という返事なので、連載を引き受けた。しばらくして宮本氏が産経新聞に異動した。本紙の芳賀由明デスクのお世話になりながら、自由な連載を継続することができ、感謝している。

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連載終了にあたって(上) 左右の「バカの壁」破ろう (2008/9/17)
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 同志社大学大学院神学研究科修了。外務省入省。ソ連崩壊を挟む1988年から95年まで在モスクワ日本大使館勤務の後、本省国際情報局分析第一課へ。主任分析官として活躍したが、2002年5月、背任などで逮捕。05年2月に執行猶予付き有罪判決を受けて控訴中。著書に「国家の自縛」(産経新聞社)など。46歳。東京都出身。


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