BREAKTHROUGH POINT 〜つきぬけた瞬間
ロングインタビュー
人生の壁にぶつかった時、彼らは何を思ったか?あの人の25歳のころと今をインタビュー。
Vol.212 - Page1
「好きなんだと思う、
そのことが大事なんですよ」
岸部一徳
きしべ・いっとく
1947年京都市生まれ。67年、ザ・タイガースでデビュー。ベーシストでありリーダーであった。当時の名は岸部修三。71年、ザ・タイガースの解散後、沢田研二、元ザ・テンプターズの萩原健一、大口広司、元ザ・スパイダースの大野克夫、井上堯之らとPYGを結成。その後、井上堯之バンドとなり、75年に脱退、音楽活動を停止する。同じ年、ドラマ『悪魔のようなあいつ』に出演。79年に岸部一徳として俳優活動を本格化。『時をかける少女』(83年)、『お葬式』(84年)、『その男、凶暴につき』(89年)などに出演、90年には『死の棘』で日本アカデミー賞最優秀主演男優賞を受賞する。『次郎長三国志』は、前作の『寝ずの番』に続いてのマキノ雅彦作品。『角川シネマ新宿』『シネカノン有楽町2丁目』『渋谷アミューズCQN』ほかで公開中。次回作の『旭山動物園物語〜ペンギンが空をとぶ〜』(09年2月公開)にも出演。『GSワンダーランド』は11月15日、『渋谷シネマGAGA!』『シネ・リーブル池袋』『シネマート新宿』ほか全国ロードショー岸部一徳 ロングインタビュー
俳優である。着流し姿は新作映画のプロモーションのため。
かつて、今一番のアイドルグループ以上の人気バンドのリーダーだった。
当時の熱は尋常ではなく、頂点を取った。でもやめた。
バンドではなく、音楽そのものを。
やめた理由もすごいけれど、俳優に対するスタンスもすごい。
ふわふわ、ふわふわしている61歳。
何しろ、いい役者と呼ばれると「妙な感じ」になるというのだから。
武田篤典(steam)=文
text ATSUNORI TAKEDA
稲田 平=写真
photography PEY INADA
岸部一徳 ロングインタビュー
ゆらりと柳のように立つ。大きい。往年のあだ名はサリー。由来はちょっとおしゃれだ。1950年代に誕生し、ビートルズもカバーしたロックのスタンダード・ナンバー「Long Tall Sally」(のっぽのサリー)。で、そのlong tallな体躯にまとった着流しの足下には“大政”という名が染められている。清水次郎長の一の子分である。
次郎長、といっても、現代においてはリアリティを持って響かないかもしれない。ものすごく義理と人情に厚い、男気あふれるヒーローである。熱血漢でおっちょこちょいの“森の石松”やらオトコマエで粋な“小政”やら、キャラの立った子分たちを従え、大暴れするのは私利私欲ではなく“義”のため。
で、52年から65年まで、マキノ雅弘監督が13本を撮った『次郎長三国志』シリーズで、日本映画屈指の“名主人公”となった。
マキノの一族に生まれ、日本映画界に底知れぬ愛と憤りを持つ男・マキノ(津川)雅彦監督が、第2作にこの『次郎長三国志』を選んだのも、なるほどである。一徳さん自身は、製作に入るずいぶん前から、大政としての出演をオファーされていたという。