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【社説】

決戦へ陣形が整った 麻生『選挙管理』内閣が発足

2008年9月25日

 首相指名の瞬間、笑顔は消えて引きつっても見えた。麻生内閣が発足した。歴史的な政権選択の総選挙が刻々迫る。敗れれば後のない緊張の船出である。

 まずは新内閣の性格づけをしておかねばなるまい。

 衆院議席の三分の二を優に超す数で麻生太郎氏は新首相に指名された。一方、野党多数の参院は民主党の小沢一郎氏を指名した。

 この「ねじれ状況」で安倍、福田両政権は倒れた。衆院任期は残り一年。避けて通れない総選挙へ与党は麻生カードを選択した。直近の民意を取りつけることで優位に立ち政権維持を図る。総選挙勝利が最大課題の「選挙管理内閣」だ。これが麻生内閣である。

 「仮置き」の閣僚顔触れ

 首相の指名は参院の結果がどうあれ、衆院の決定が優先する。麻生新内閣の閣僚の顔触れは、指名選挙が始まる前からメディアに流され、微調整を経て最終的に新首相自ら名簿を発表した。

 官房長官に河村建夫氏、外相に参院の中曽根弘文氏、財務相に中川昭一氏…と、地味系、あるいは力量の未知数な人たちが並ぶ。必ずしも「総選挙シフト」とばかりもいえない布陣には、自民党総裁として幹事長にやはり地味系の細田博之氏を先日選んだと同様に、選挙の顔は自分一人でいいのだという自信の表れ、と解説されている。

 つまり「仮置き」と見ていいのだろう。党総裁に就任しての第一声は「民主党に勝つ」であった。選挙で勝たねば話が始まらない。勝って、そののちに、本格政権を構える。麻生流の歯切れの良さではある。

 けれども、舛添要一氏に厚労相続投を求めたのはどうか。後期高齢者医療制度の根幹見直しを口にして、内外の反発に遭って言葉を濁している。喫緊の関心事でもある重要政策の“ぶれ”をうやむやにしていては、命取りになる。

 歴史的な局面と心得よ

 安倍内閣での外相当時、麻生氏は「自由と繁栄の弧」を旗印にする、いわゆる価値観外交を唱えていた。近隣アジア諸国には、その真意とタカ派的体質を懸念する声があると聞く。たとえ仮置きであっても新外相は、内外に向けて誤りのない明確なメッセージを発するよう、強く求めておく。

 与野党は選挙準備を既に整えつつある。投開票日が多少ずれたとしても、誤差の範囲の様相だ。

 新内閣は緊急経済対策としての補正予算成立を目指すという。私たちは速やかな解散・総選挙を求めるが、短期間であれ充実論戦で新首相の識見を知ることができるなら望ましい。この期に及んでの駆け引きは無用である。与野党の双方に真摯(しんし)な対応を促す。

 近々迎える総選挙は、衆参で多数派を分け合う麻生自民と小沢民主の二大政党が、政権をかけて競う歴史的な決戦となる。

 三年前の総選挙で威力を見せつけて自民を歓喜させた小選挙区制が、今度は民主にほほ笑むかもしれない。二十世紀最終盤の政治改革が招いた「変革の可能性」。小沢民主党は「最終決戦」で臨む。

 自民、民主の決戦に埋没を恐れる公明党は、政権交代も視野に入れて「自存自衛」の態勢をとる。社民、国民新両党は民主との選挙協力などで生き残りを図り、共産は民主とも距離を置きつつ、小選挙区候補の擁立を従来の半分に絞って党の消長をかける。

 十五年前に自民が野党に転落した政変とは趣が異なる。「政権交代」を是とするか、非とするか、有権者が選択すれば、それが現実になり得る、これまでにない場面が近づく。

 新首相は民主を「国家経済や社会を支えていく覚悟と決意、それを裏付ける実績、もしくは実力があるだろうか」として、高速道料金の無料化や子ども手当を「無責任なバラマキ」と批判する。民主は脱・官僚主導を訴えて「自公政治では何も変わらない」と切り返す。抽象論から具体論へ、争点の明確化をぜひとも急いでもらいたい。

 折からの米国発金融危機と、国民生活への影響は目を外せない。年金はじめ医療などの将来不安、もっかの食の安全も、のっぴきならないところにきている。

 細る国力、増大する国の借金、そして世界の安定へ、私たちは何をすべきか。与党も野党も選択肢の提示が必要だ。もちろん新首相が浮かれている暇はないだろう。慌ただしく訪米しての国連演説もある。「失言」は禁物である。

 言葉の質を今こそ競え

 解散前提の国会は週明けに、新首相の所信表明、各党代表質問が行われる。予算委の審議もあるのなら、熱い論戦を期待する。

 肝に銘じておいてほしいのは、発する言葉を軽んじず、その質を競うことである。もしかしたら選挙の先に政局混迷がある。ここで政治が信頼を取り戻しておかないと、いよいよ立ち直れなくなる。

 

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