コレステロール値を劇的に下げる物質「スタチン」を三十五年前に発見し、米国最高の医学賞「ラスカー賞」を受ける遠藤章さんは若いころ、英国の学者フレミングの伝記に感銘を受けたという。
フレミングが一九二〇年代に発見した抗生物質ペニシリンは当初ほとんど注目されなかった。十数年後、別の学者が感染症に対する効果を確認してやっと認められフレミングは四五年、ノーベル賞を受けた。
二十一日付本紙「ひと」欄によれば遠藤さんは米国でコレステロールに関心を持ち、六千種のカビやキノコを調べてスタチンの一種を見つけた。だが、効果や安全性を疑われ製薬会社時代は実用化に難渋した。
遠藤さんの足跡を記した「世界で一番売れている薬」(山内喜美子著)に詳しい経緯がある。結局、薬としてのスタチン発売では海外の製薬会社に先を越された。世に出ると広く価値が認められ、今では世界で三千万人以上が服用する「奇跡の薬」になった。
同書には遠藤さんが伝記で感動したのはペニシリンの発見より、フレミングが乗り越えた困難と挫折の歴史だったとある。遠藤さんも同じ道を歩んだことになる。
再評価の結果であるラスカー賞はノーベル賞の登竜門といわれる。遠藤さんが先人と同じ栄誉に浴する日が来るかもしれない。