各国首脳が集まる六十三会期国連総会の一般討論が始まった。日本の演説は二十五日に予定されている。
大統領や首相自らが出席するのは約百二十カ国に上るとみられている。日本の首相は、過去二年出席していない。二十四日に首相に指名される麻生太郎氏が総会の演壇に立たなければ日本の存在感は一層低下する恐れがあろう。
日本政府は外交の柱を、国連中心主義と日米同盟重視としてきた。しかし、ブッシュ米政権が力ずくで推し進めたイラク戦争に追随する形で、国連中心主義よりも日米同盟強化へ軸足を移した感がある。
イラク戦争の大義とされた大量破壊兵器が見つからず、ブッシュ政権の一国主義に対する国際世論の批判は高まった。最近の米国発の世界的な金融不安によっても米国の一極集中は崩れている。日本は多国間協調を目指す国連中心主義の重要性を再認識すべきだ。
日本にとって今会期が重い意味を持つのは、国連安全保障理事会の拡大問題で、国連総会が来年二月末までに改革議論の場を従来の作業部会から本会議に移し、本格的な政府間交渉を始めることで合意しているからだ。政府は総会と並ぶ国連の最重要機関で、国際平和と安全の維持に責任を負う安保理の常任理事国入りを日本外交の悲願としてきた。本会議での交渉入りで、安保理改革の前進が期待できるだろう。
安保理拡大問題は、これまで国連総会の作業部会で話し合われてきた。しかし、作業部会は全会一致を原則とし、一カ国でも反対すれば動かなくなり、議論は暗礁に乗り上げていた。
日本はインド、ドイツ、ブラジルとともに四カ国グループ(G4)をつくって安保理拡大論議を主導してきた。採決で議論を前進させられる本会議での交渉が始まるといっても、加盟国には常任理事国拡大への反対意見が根強い。G4は結束を強め、合意を得る粘り強い努力が求められる。
肝心なのは、なぜ日本が常任理事国入りを希望し、メンバーになった場合は何をするのかを明確に示すことだ。現在の常任理事国は米国、英国、フランス、ロシア、中国の五カ国だが、グルジア情勢などをめぐって米ロ間で対立が深刻化し、新しい冷戦が懸念される。
安保理が機能しなくなる恐れもあるだけに、平和憲法を持つ日本らしい役割をどう担っていくか。政権選択をかけた次期衆院選に向け、与野党は政策論争を高めるべきだ。
米粉加工販売会社「三笠フーズ」(大阪市)などによる残留農薬やカビ毒に汚染された事故米の不正転売問題で、政府は再発防止策や、汚染米と知らずに購入した事業者の救済措置を打ち出した。
非食用を条件に農林水産省から買い受けながら食用に不正転売して利益を得る悪質な行為の波紋は、さらに広がっている。政府によると判明した三笠フーズの汚染米の流通先は、二十二日時点で二十六都府県の三百九十業者に及ぶ。用途も酒や菓子、学校や病院の給食にまで拡大し、消費者の不安と憤りは募るばかりだ。一方で、善意の業者の風評被害も深刻化している。
対策は、こうした事態の沈静化を図る狙いで、農水省や厚生労働省などの検討チームがまとめた。再発防止策は、汚染米を国内市場に流通させないこととし、汚染米は輸出国への返送や廃棄処分とする。今後の検討課題には抜き打ち検査の実施や、コメのトレーサビリティー(生産履歴)の導入、罰則強化などを挙げる。さらに、善意の業者の救済については政府による商品の回収・廃棄費用の一部負担や、経営に支障が出た場合の支援などを盛り込んだ。
とりあえず対策は並んだ。しかし、要はいかに実効性を高められるかである。トレーサビリティーの導入にしても、井出道雄農水事務次官は「一頭ごとの遺伝子構造が異なる牛肉などと違い、コメの場合はどこでとれたかを追跡するのは非常に難しい」との認識を示した。だが、流通経路の把握は不正を防ぐ上で重要だ。難しい点があれば、それを補う工夫を求めたい。
汚染米をめぐる業者と農水省の使命感の欠如が失墜させた食の安全を取り戻すには、徹底した全容解明と抜本的な改革が欠かせない。
(2008年9月24日掲載)