不正送金の流れ
【台北=野嶋剛】台湾の陳水扁(チェン・ショイピエン)前総統が在任中に選挙資金などを海外に不正送金した事件で、世界各地のタックスヘイブン(租税回避地)にペーパーカンパニーや銀行口座を設け、資金洗浄(マネーロンダリング)を行っていた疑惑が次々に明るみに出ている。清潔さを売り物にした陳氏と家族による地球規模の計画的なマネロン工作に驚きが広がっている。
発覚したのは今年8月。陳前総統と呉淑珍夫人がシンガポールやスイスの口座を通じて資金移動したところ、スイス当局が資金洗浄の疑いがあるとして2100万米ドル(約23億円)を凍結した。これまでの検察発表や報道によると、このほか04年ごろから中南米の英領ケイマン諸島や英領バージン諸島、欧州の英領ジャージー島など世界の名だたる税金天国に、陳氏の長男夫妻や呉夫人、呉夫人の実兄らの名義で口座やペーパーカンパニーを大量に設けていた。
陳氏の長男夫妻は記者団に「自分は名義貸しに過ぎない」「母の言いつけには逆らえない」と述べ、主導役は呉夫人との見方が強い。
台湾当局はシンガポールに検察官を派遣し、米国やスイスにも捜査協力を要請。シンガポール側が提供した資料から今週、新たにシンガポールからの送金先としてバージン諸島でのペーパーカンパニーの存在が明るみに出た。
陳氏は当初「今年初めに妻から送金の事実を告げられるまで自分は知らなかった。私自身には一切の不正はない」と説明したが、06年末から資金洗浄を監視する国際組織が台湾の担当部局に情報提供しており、陳氏も後に報告を受けたことは認めた。
陳氏はこれまでスイスで凍結された2100万米ドルは「過去の選挙資金の余り」と主張している。だが金額の大きさから機密費を流用した疑惑も浮上しており、事実なら公金を私的な口座に移した汚職の罪に問われる可能性もある。検察側は資金の出所や用途の解明を進め、年内に立件のメドをつける構えだ。