「テロとの戦い」の空虚
'06/8/31

「テロとの戦い」を金看板に、「テロに屈しない」と声高な小泉純一郎首相。インド洋へのイージス艦投入、戦地イラクへの初の陸上自衛隊派遣はその証しだろう。だが身近な「テロ」への反応は驚くほど鈍い▲八月十五日、自民党の元幹事長加藤紘一衆院議員の実家と事務所が全焼した。右翼団体構成員(65)による放火という。その加藤氏は繰り返し小泉首相の靖国神社参拝を批判してきた。とりわけ十五日の参拝には強く反対した▲家が燃やされたのは、首相が初めてこの日の参拝を実行した、まさにその夕方だった。動機などは今も明らかでないが推測はできる。卑劣極まりない暴力によって口封じを狙った「政治的テロ」ということである▲だが信じられないことに、首相は国民に向けて一言も発せず、その後も沈黙を続けた。夏休みを取ったとはいえ、やっと言及したのは二十八日。事件から二週間後だった▲そのコメント。「暴力で言論を封じることは決して許されない。厳に注意しなければならない」。悲しいかな通り一遍で、暴力に対する激しい憤りは伝わってこない。この迫力のなさと、強烈な「テロに屈しない」。落差の大きさに戸惑いを覚える▲このところ首相参拝批判に対して暴力の影がちらつく。一方、事件の不気味さに対する一般社会の危機感は乏しいように見受けられる。いつもは勇ましい首相の今回の素っ気なさ。こうした状況と合わせ鏡になっているのかどうか。




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