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民主主義を根底から揺るがす犯行で、被害者が一人であっても極刑はやむを得ない。そう明確に言い切った判決だった。長崎市の伊藤一長前市長=当時(61)=を射殺したとして、殺人などの罪に問われた暴力団組員城尾哲弥被告(60)に対して、長崎地裁はきのう、求刑通り死刑を言い渡した。
現職市長が昨年四月、選挙戦の最中に繁華街で凶弾に倒れたこの事件に多くの市民が怒り、体を震わせた。前市長は被爆地長崎の代表として「核と人間は共存できない」と世界に訴えてきた。無念の死に同じ被爆地広島でも深い悲しみが広がった。
検察側は、論告で「選挙テロ」と指弾し、弁護側は「計画性のない突発的犯行」として情状酌量を求めた。松尾嘉倫裁判長は「冷酷、残虐で極めて凶悪。銃犯罪の恐怖を全国に広げた」と厳しく断罪した。
最大の焦点は、死刑が適用されるか否かだった。最高裁が死刑適用基準を示した一九八三年の永山事件判決以降、被害者数が一人で死刑を適用した例は少ない。それも、女性暴行や金銭強奪などを伴ったケースに限られるからだ。
悪質で残虐な事件だけでなく、銃を使った暴力団の凶悪犯罪にも厳罰で対処する。そんな姿勢を明快に示したのが今回の判決の特徴である。遺族の強い処罰感情や選挙の混乱を招いた重大性なども考慮したとみられる。
動機について判決は、被告が組織内で力をなくしたことや、経済的な困窮に加え、市道での車の事故で市から補償金を取れず「自暴自棄になっていた」と指摘。犯行を決意した時期についても、前市長が市長選立候補を表明した直後の昨年二月とし、「かなり以前から計画していた」と認定した。
長崎市では九〇年にも、当時の本島等市長が右翼団体幹部に銃撃され重傷を負った。市議会で「天皇の戦争責任はあると思う」とした発言が引き金だった。
今回の事件では思想的動機こそみられないが、判決では、資金源に窮した暴力団関係者らが自治体の首長や職員を脅して公共事業への入札や金銭を不当に要求する「行政対象暴力」だったと指摘する。自分の思い通りにならない相手を、力で従わせようとする点では共通する。罰則強化などを盛り込んだ改正暴力団対策法が四月に成立したばかりだ。
さらに、銃による凶行だったことから、銃規制強化の世論もわき起こった。その後も長崎県佐世保市の散弾銃乱射などの事件が相次いだことから、犯罪歴のある者には所持を許可しないなどの対応策を盛り込んだ銃刀法改正案が、秋にも国会に提出される運びだ。
話し合いで物事を決めるのは、民主主義の基本だ。テロや暴力は、そのルールを否定し、民主主義社会の土台を壊してしまう。意に沿わない相手を力で脅したり、傷つけたりする風潮がはびこってはならない。判決で示されたのは、暴力を許さず、毅然(きぜん)とした態度で立ち向かう決意だろう。
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