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市長殺害初公判 示威の発砲だったとは '08/1/23

 あらためて、昨年四月の選挙活動中に事務所前で凶弾に倒れた長崎市の伊藤一長前市長の無念を思う。長崎地裁できのう、殺人や公選法違反などの罪に問われた暴力団組員城尾哲弥被告(60)の初公判があった。

 検察側によると、二〇〇五年ごろから経済的に困窮した城尾被告が、資金源だった建設会社への融資や市道工事現場での事故の賠償金支払いに応じないとして、長崎市への不満を募らせた。自暴自棄にもなって、知名度の高い伊藤前市長の命を狙い「大事件を起こして暴力団組員としての意地を見せたい」と決意したという。

 そして、あろうことか、言論活動を前提にした民主政治にとって最も大事な舞台である選挙の最中に、無防備の前市長の命を奪ったのである。

 弁護側は殺意の発生時期などを争う。十分な審理で動機を詳細に解明し、犯行の全容を明らかにしてもらいたい。

 城尾被告は起訴事実を認め、前市長と遺族に謝罪したとはいえ、あまりに身勝手だ。暴力団の存在がいかに反社会的かをまざまざと示してもいる。断じて許されない凶行である。

 公共事業でのトラブルや公金の支出にからみ、行政の担当者を脅して不当な要求に従わせようとする行政対象暴力も目に余る。今回の事件後に警察庁が実施した自治体アンケートでも、「暴力団への対応に不安を感じる」という声が目立った。警察との連携も緊密にして、行政対象暴力を根絶しなければならない。

 暴力団員による拳銃の発砲事件もなお相次ぐ。今回のケースなどを教訓にして、昨年十一月には銃刀法が改正された。組織的な違反に対する罰金の大幅増額など厳罰化で銃器犯罪を減らそうとの狙いである。効果を発揮するには時間がかかるかもしれない。警察は住民からの情報提供なども生かし、暴力団が不法に所持する拳銃の摘発に全力を尽くしてほしい。

 伊藤前市長は被爆地の代表として、核兵器廃絶に熱心に取り組んでいた。長崎市では一九九〇年にも、当時の本島等市長が右翼団体幹部に銃撃され重傷を負っている。それだけに、事件は社会により一層強い衝撃を与えた。

 政治的な背景の有無にかかわらず、テロをはじめ言論を封殺する暴力を決してはびこらせてはならない。暴力を誇示できないよう勇気を持って立ち向かおう。




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