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ここから本文エリア 「松葉杖訓練法」存続を2008年09月24日
脳性マヒなどの障害があり、寝返りや歩行ができない子どもたちのために40年ほど前、北区の都立北療育医療センターで考案された独自の運動機能訓練法がピンチを迎えている。現在、実践する唯一の職員が来春、定年退職を迎え、継承者がいなくなるからだ。何とか技術を残して欲しいと、「卒業生」やその保護者らが連携し、継承者を探している。 都立北療育医療センター訓練室で、松葉づえをさらしで体に固定した区内の女の子(5)が、訓練を担当するマッサージ師の湯沢広美さん(59)に支えられながら前に進み出した。顔はにこにこだ。湯沢さんは「立って歩きたいというのは人間の本能。最初は怖がっても、多くの子が喜ぶ」と話す。女の子が週2回の訓練を受け始めてから約2年。立位を保つこともできるようになってきた。母親(40)は「訓練の頻度も多いし、わずかずつだけれど向上している」と喜ぶ。 この訓練法は「LS―CC松葉杖(づえ)訓練法」と呼ばれる。人間が歩行するまでにたどる、首が据わる→寝返り→腹ばい→座る→つかまり立ち→歩く、という行程を複数の道具を使って繰り返し訓練する。 60年代後半から、当時同センターの理学療法士だった坂根清三郎さん(74)らが、「わきの下で支える松葉づえを使うと、自分でバランスをとる、より独歩に近い姿勢を身につけるのに有効だ」と考えた。それまで無理だと言われた障害の重い子や、小さな子にも使えるよう工夫した。湯沢さんは「これまで4千人ほどが訓練を受けたのではないか」とみる。 しかし、欧州で考案された訓練法が障害児の運動機能訓練の主流となっていき、この訓練法は広まらなかった。同センターでも「個々の訓練士がどの訓練法を採用するかを、病院側が強制する訳にもいかない」と説明する。 訓練を受けた本人と保護者らで05年、「障がい者の医療と療育を考える会」を結成、訓練法の存続活動を続けている。この訓練法を実践する唯一の職員、湯沢さんは来春、定年退職を迎えるが、後継者はいまだ見つかっていない。 副代表で新宿区の会社員、阿蛭栄一さん(30)は、就学前に毎日2時間の訓練を受け、小学校から地元の普通学校へ通った。「訓練はつらいこともあるが、そのおかげで今の自分がある」と言い、「今、訓練している子の環境を守ってあげたい」と話す。 代表の江戸川区の小畠みをさん(38)の長男(14)は、この訓練を受けるまで正しい立位がとれなかった。小畠さんは「他の訓練法では歩けなかった子が歩けるようになった例はたくさんある。知名度は低い訓練法だが、利点を理解してもらい、後継者を育てたい」と話す。同会の連絡先は電子メールで小畠さん(m_spaper@yahoo.co.jp)へ。 ■少ない訓練機会 保護者に不安も 障害児の保護者の間には、運動機能訓練そのものが不足していることへの不安も根強い。障害児は、18歳以上の障害者に比べて圧倒的に少ない。そのため、日本理学療法士協会の統計でも、障害児の機能訓練を担う理学療法士は全体の1%にも満たない。 この夏、都内の特別支援学校で行われた保護者アンケート(約80人が回答)では、機能訓練を受けたいと思っている保護者は1人を除いて全員だったのに対し、「訓練を受けていない」が2割あった。「もう必要ないと言われた」「受けるところがない」「効果が上がらず通うことに疲れた」などの理由からだ。また、「高等部になり週1回になり不安」「成長するにつれ、ゆがみなどが進むので、マッサージや動かすことは必要」などの声もあり、年齢が上がると、訓練頻度がより減ることに疑問を持つ声も多かった。
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