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社説:地価下落 投機マネーに頼らない開発を

 不動産バブルの崩壊に伴い欧米では金融システムが危機的状況に陥り、経済全体に打撃を与えている。日本の金融への影響は限定的とはいえ、対岸の火事とばかり言っているわけにもいかないようだ。不動産市況の下落傾向がはっきりしてきたからだ。

 今年7月1日時点の全国の地価を調べた基準地価によると、1年前と比べ、全国平均で住宅地が1・2%下落、商業地が0・8%下落と、いずれも前年を下回った。

 商業地は昨年の調査で16年ぶりに上昇に転じていた。しかし、再び下落した。

 東京、大阪、名古屋の3大都市圏に限ると、住宅地が1・4%上昇、商業地が3・3%上昇と、ともに3年連続で上昇したことになっている。

 しかし、上昇率は前年を下回り、特に今年に入ってからの半年については、3大都市圏でも、多くの地点で値下がりしている。持ち直し傾向にあった地価は、明らかに下落傾向が鮮明になっている。

 経済をめぐる状況はこの1年で激変した。東京などの都心の一等地に資金が集中的に投じられ、ミニバブルと呼ばれる現象が起こり、それが周辺部にも広がっていったのが昨年の夏に入る前の状態だった。マンションの売り渋りという現象も起こっていた。

 過度にならないうちに投機熱は冷まさなければならないということから、金融庁は銀行へのヒアリングを通して不動産向け融資のチェックを始めた。金融庁の行動は十分に理解できることだった。

 ところが、米国のサブプライムローン(低所得者向け高金利住宅ローン)問題で欧米の金融機関に巨額の損失が発生していることが明らかになる。昨年の秋口から外資の資金引き揚げが始まり、都心部の地価は反転し、下落が目立つようになった。

 不動産開発会社の破綻(はたん)が相次ぎ、その余波は建設業界にも及んでいる。特に、地元での工事が減り、大都市部の不動産開発に活路を求めた地方の建設会社の倒産が目立つ。

 投機行為が過熱してバブルを生むと、その後始末に苦しむ。日本が嫌というほど経験し、これから欧米諸国が体験することになるはずだ。

 とはいえ、不動産市況が冷え込んだままでは、経済に活力が出てこない。特に、地方の地域活性化では担保となる不動産の価格が上向きに転じないと、お金の流れが円滑にならない。

 投機マネーに頼ったり、それに便乗する形で資金を取り込む不動産開発には、やはり限界がある。

 年金など長期で安定的に運用する資金を集められるようにすべきで、そのためには、魅力ある街づくりなど、経済活動が活発化し、地価の上昇につながる工夫が必要だ。

毎日新聞 2008年9月24日 東京朝刊

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