福田康夫首相(自民党総裁)の突然の退陣表明を受けて行われた自民党総裁選は、麻生太郎幹事長がほかの四候補を大差で破り、新しい総裁に選ばれた。二十四日の臨時国会で次期首相に指名される見通しだ。
総裁選は、緊急事態のため党大会に代わる両院議員総会で行われた。党所属国会議員各一票(計三百八十六票)、都道府県連各三票(計百四十一票)の合わせて五百二十七票で争われ、麻生氏は三百五十一票を獲得した。五人も立候補者がいる中での圧勝だ。特に地方票では95%という圧倒的な支持を得たことが大勝につながった。
麻生氏はただちに党役員人事を行い、新幹事長に細田博之幹事長代理を起用したほかは、保利耕輔政調会長、笹川尭総務会長、古賀誠選対委員長、大島理森国対委員長などいずれも再任した。当面の臨時国会や、来るべき総選挙に備え、党内の足場を固める布陣とみられる。
低調な政策論争
自民党にとっては“選挙の顔”を選ぶことが、最大の眼目の総裁選だった。次期総裁に本命視されていた麻生氏だけでなく、初の女性議員など計五人もの立候補は活発な論戦への期待とともに派閥の力が薄れたことをうかがわせた。半面、多数の候補者で新総裁選出のドラマ盛り上げを図り、その余勢を駆って次期衆院選で民主党を迎え撃つという思惑も透けて見えた。
立候補者による街頭演説会は全国十七カ所におよび、一見華々しい選挙戦が展開された。しかし、当初から麻生氏の優位は揺るがず、「出来レース」に対する国民の反応は冷めていた。期待された政策論争も経済政策をめぐって景気対策を優先するか、財政再建路線を堅持するかで、立場の違いが浮き彫りになったものの、突っ込んだ議論とはならず物足りなかった。
一方、汚染米の不正転売や米証券大手リーマン・ブラザーズの経営破たんなど、国民生活に直結する大きな問題が次々に発生した。政府・自民党が対応に追われ、総裁選による「政治空白」への批判も浮かび上がった。政策論争はしぼむばかりで、当初のもくろみは空振りに終わったと言わざるを得ない。
対決姿勢前面に
麻生氏は総裁に決まった直後、「困難に立ち向かわなければならない。そのスタート台に立った」と位置付けたうえで「政権政党として次なる総選挙で民主党と戦っていく。選挙に勝って国の再生を果たし、改革を成し遂げ、さらなる一歩を進めていかねばならない」と決意表明した。
前日の民主党大会で、代表に三選された小沢一郎氏が政権交代への不退転の決意を表明したのを強く意識したことは明らかだ。次期衆院選での民主党との対決姿勢が一段と鮮明になった。
既に与党内では総裁選の最中から衆院解散・総選挙の日程が調整されていた。投票日を十月二十六日とする早期解散戦略から、十一月二日や同九日とする案が取りざたされているようだ。ただ、総裁選で麻生氏の人気が盛り上がったといえるのか。いまひとつという印象だっただけに、早期解散戦略に踏み切れるかどうか。
難しい判断
麻生氏は、景気減速に対する補正予算案を成立させたうえでの衆院解散を模索しているという。しかし、国会で審議に入れば、汚染米問題や年金問題で野党からの攻撃は必至だ。米国の金融危機に伴う対応策も課題となろう。そのため、野党にポイントを許すような場を設けることを避け、臨時国会冒頭での解散を求める声が与党内には根強い。
景気対策で補正予算の成立を目指すか、臨時国会冒頭で解散するか。麻生氏は難しい判断を迫られそうだ。
記者会見で麻生氏は「老後と景気への不安、政治への不満をいかに解消するかが私に与えられた使命」と述べた。福田政権下での無役だった時期に地方を回って感じたことだという。
麻生氏が耳にしたのは地方の人たちの切実な訴えだ。その声にしっかり応えなければならない。明日への展望の持てる社会づくりに向け、具体的な政権構想を臨時国会の所信表明で明確に示してほしい。その上で、国民に信を問うべきだ。