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鞆よ!
【漂流22年 鞆の浦架橋・埋め立て計画】
5)平山郁夫氏に聞く
2005年12月19日
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鞆を訪れる観光客は年間100万人以上とされる。視察なども含め、週末はとくににぎわう=福山市鞆町で |
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平山郁夫氏 |
世界各地の文化遺産の保存に尽力する瀬戸田町出身で日本画家で、ユネスコ親善大使も務める平山郁夫・東京芸術大学長(75)は、埋め立て・架橋計画が進む福山市の鞆の浦を「世界遺産に値する」とかつて評価した。開発の波にさらされる鞆と瀬戸内に寄せる思いを聞いた。
−−鞆の浦について、専門家から「世界遺産級」との声が出ています。
「万葉の時代から残る鞆の浦は、町並みを含めて世界遺産に指定される可能性がアルト思う」
−−埋め立て・架橋計画をどう見ますか。
「住んでいる人が利便性を望む気持ちはわかる。重要な文化遺産だから価値を認めて残せというのも理由が成り立つ。ただ、オール・オア・ナッシングで、やってしまえとなりがたちなので、徹底的に話し合い、折り合いをつける必要があるだろう。一度壊したら二度と元には戻らない」
「必要なら、不便さ解消されない住民に補償があってもいいのではないか。住民が不公平感を抱かないように配慮することが大切だ。なぜ保存するのか、どこに価値があるのかを客観的、学問的にきちんと示す必要がある」
−−架橋に反対する専門家などは山側トンネルを提案していますが、行政は「架橋は決定済み」という姿勢です。
「後世からそしりを受けないように、時間をかけて話し合いをしなければ。史跡の価値がわからないまま計画を決め、後になって計画を変更した地域は多い。史跡の価値に関する共通の認識を作り上げる必要がある。『改めるにはばかるなかれ』だ」
−−ユネスコの諮問機関で世界遺産候補地を調査・研究している国際記念物遺跡会議(イコモス)総会で、埋め立て・架橋計画の中止を求める決議が採択されました。
「行政は真摯(しんし)に受け止めてほしい。いまの日本は、すばらしい伝統や有形無形のものがどんどん崩れてしまっている。本当に後世の子孫に対して恥ずかしくないか、悔いを残さないか、じっくり考えてほしい。これは教養、良識の問題じゃないだろうか」
−−イコモスの代表らと会談した県幹部は「貴重というなら自分たちで住民を説得すればよい」とも言っていました。
「自分たちの郷土の問題ではないか。きちんとした理論で反論してほしい」
−−平山さんがアフガニスタンの遺跡保存運動の中で、「人類共通の宝」と言われたことが印象的でした。鞆を地域問題として片づけてよいのでしょうか。
「鞆港は日本の内海のメーンロードの交通要所で、最も古い形で残っている港。これをつぶしてしまったら、ほかにはもうない。便利さや経済効果を求めていくのか、みんなが汗をかきながら共同で守っていくのか、このあたりは見識だろう」
「計画に賛成する住民の気持ちはわかるが、日本の文化や歴とという観点に照らして判断してほしい」
−−瀬戸内の自然環境は子供時代に比べて変わりましたか。
「どんどん変質している。よかれと思ってやった開発で自然や環境が壊れ、画一的になってしまった。しかし、行政も反省して、自然の状態に戻そうとする動きも出ている。鞆の場合、まだ現実に残っているんだから、何回でも話し合えばいい」
ひらやま・いくお 30年、瀬戸田町生まれ。東京美術学校(現・東京芸大)卒業後、「入涅槃幻想」(61年)で日本美術院賞を受ける。73年、東京芸大教授、89年、同学長、96年、日本美術院理事長に就任。98年、文化勲章受章。レジオン・ドヌール勲章、マグサイサイ賞なども受けている。88年からユネスコ大使として活躍し、シルクロードやアンコール遺跡の救済にも取り組む。01年から2度目の東京芸大学長を務める。
=おわり
(この連載は佐藤善一記者が担当しました)
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